2016年8月1日
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前回に引き続き今回も、第1回日本サービス大賞の地方創生大臣賞を受賞した旭山動物園が、閉園の危機に直面してサービスをどう改革してきたのかをひも解いてみたいと思います。そこには、サービスに関する「矢印をひっくり返すこと」への挑戦がありました。その4つの観点のうち残る2点を取り上げてみたいと思います。
旭山動物園の行動展示の例:狭いところを泳ぐアザラシの習性を観察できる
出典:第1回日本サービス大賞
建前になっている「お客様目線」や「顧客志向」
「お客様目線」や「顧客志向」「お客様満足」などの言葉がどこでも掲げられるようになった分、それが絵に描いた餅になっていて誰も本気になっていない、という企業が増えています。今回の第1回日本サービス大賞の受賞サービスを見てみると、旭山動物園に限らず、これらの言葉に本気になるための意識改革がカギを握るものが少なくありません。提供者目線や建前のお客様目線から、真のお客様目線に、本気になって矢印をひっくり返せるかは、サービス改革において大きなポイントだといえます。
旭山動物園の場合、閉園の危機に直面したことで、真のお客様目線での改革を進めるきっかけとなりました。真にお客様目線になってみると、動物園のサービスとしての仕様のおかしなところがたくさん見つかりました。動物はお客様にいつもお尻を向けているし、職員もお客様に意識が向いていない。動物園なのにジェットコースターなどの遊具にばかり投資している。これでは、お客様の動物園への本当の事前期待には応えられていない。それに気が付いたことで、大きな改革が動き始め、「行動展示」が生まれたのです。
前々回ご紹介した「ななつ星in九州」でも同じです。日本初の豪華寝台列車のビジョンに向かって、鉄道会社は人や物を早く正確に運ぶ輸送業ではなく、「我々はサービス業である」と明確に定義することで、意識改革を進めています。
ビジョンや危機感をもって、「我々はサービス業である」という原点に、いま一度立ち返ってみる価値はあるのではと思います。サービスの本質を改めて理解し、真にお客様目線になって自分たちのサービスを見つめ直してみる。すると、変化のきっかけを見つけることができるのではと思います。「我々のサービスが本当に満たすべき事前期待は何か?」この問いを追求してみる価値はあると思います。
ひっくり返した矢印は元にもどりやすい
サービス改革を通して、「矢印をひっくり返す」ことに成功しても、それを継続できなければ意味がありません。気を抜くとすぐに元に戻ってしまうのも、サービスの難しいところです。そこで旭山動物園では、様々な工夫がされています。
代表的なのは、今まで顧客接点を持っていなかった飼育員自らがお客様との接点に立って、飼育員しか知らない動物の魅力を伝えたり、館内の掲示物を自分で作ったりといった役割を担っている点です。そうすることで、飼育員自身がお客様に喜んでいただくことへのやりがいを直に感じ、「真のお客様目線」を追求したり、サービスを自発的に磨き上げる原動力にしています。
しかも、飼育員には無用な数値管理や目標設定はせず、お客様に喜んで頂くための努力に集中できるよう、サービスのマネジメントにも工夫がされています。これは、閉園の危機に直面した際の教訓でもあります。旭山動物園は、「利益第一」ではお客様が離れて行ってしまう。そこで、あえて飼育員や現場の職員には「お客様に感動していただくことに専念する」という方針を徹底しているのです。そうすることでお客様が絶えない旭山動物園のサービスを実現し続けているのです。
サービスはお客様と一緒に作るもの。だからこそ、優れたサービスをたった1回実現しただけでは意味がなく、継続的に実現し続けなければなりません。ひっくり返した矢印が元に戻らないようにすること、そして継続を力に変えられるようにすることこそが、サービス改革には欠かせないのです。
今回は、危機に直面したことで真にお客様目線になり、様々な矢印をひっくり返すことでサービス改革を成功させ、優れたサービスをつくりとどけている旭山動物園に着目してみました。自社のサービス事業に危機感や問題意識を持っている方にとって、サービスを変革するためのヒントになれば幸いです。
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。 |