連載コラム

    SPRINGとは

    入会案内

  • 日本サービス大賞
  • JCSI 日本版顧客満足度指数
  • 大人の武者修行バナー

    cafeバナー

    SPRINGフォーラムバナー

    日本サービス大賞

    日本サービス大賞

    会報バナー

    書籍紹介

    提言・宣言

  • 提言・宣言
  • ハイ・サービス日本300選

     

  • リンク
  • SES Service Evaluation System:サービス評価診断システム

     開発・運営:(株)インテージ

【連載】CS向上を科学する

2016年6月24日

【CS向上を科学する:第29回】事例に学ぶ優れたサービスのポイント:「ななつ星in九州」




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己


「第1回 日本サービス大賞」の受賞サービスが発表され、日本の優れたサービスに注目が集まっています。いまやすべての産業において、サービスが競争優位そのものになりました。業種や業界の枠を超えて、日本の優れたサービスから気付きや学びを得て、自社のサービスを磨き上げようと努力する企業が増えてきました。
※サービス産業生産性協議会(SPRING)が主催する優れたサービスを表彰する制度

もちろん、これまでにも書籍や講演などで様々なサービスの事例に触れた方は多いと思います。しかし事例だけ知っても、「事例としては興味深いものの、自社で具体的に何を活かしたら良いか分からない」、「業界や事業モデルが違うので、施策をそのまま取り入れても役に立たないのでは」と、うまく活かせないことも少なくありません。そこで当連載では、日本サービス大賞を受賞したサービスを単に事例として紹介するのではなく、業種や業界の枠を超えて気付きや学びを得て頂くために、これまでに触れてきたサービスやCSの本質論を活かして、「優れたサービスのポイント」をひも解いてみたいと思います。


「ななつ星in九州」(第1回 日本サービス大賞 内閣総理大臣賞) 

ななつ星in九州
出典:第1回 日本サービス大賞 photo by Hirokazu Fukushima( frap Inc. )

栄えある第1回日本サービス大賞の最高賞である内閣総理大臣賞を受賞したのは、JR九州が運営する日本初の豪華寝台列車であるクルーズトレイン「ななつ星in九州」です。豪華列車というハード面だけに留まらず、鉄道を輸送事業から感動を呼ぶサービス事業へと大きく転換させた革新的サービスとして、高い評価を得ました。サービスの概要や列車の豪華さは、様々なメディアに取り上げられているので、説明はそちらに譲ることとして、ここではサービスとして特徴的な点にフォーカスして、そのポイントをひも解きたいと思います。

ななつ星のサービスを利用するお客様の中には、出発する駅のホームで涙を流される方がたくさんいらっしゃいます。これから旅が始まるという段階で、すでに感動が生まれているのです。

ななつ星はサービス開始以来高い人気を集めており、サービスを利用するためには抽選に当たらなければなりません。見事当選したお客様は、出発の半年前である当選直後から出発当日まで、ななつ星専門のツアーデスクとのコミュニケーションが始まります。当選の連絡に始まり、旅の説明やプランの検討など。更には、お客様ごとに旅への想いや背景を聞き、その想いに合わせて旅をコーディネートしていきます。加えて、ななつ星や地域を紹介した季刊誌、担当クルーからの手書きのお手紙なども届きます。このように旅の半年前から何度もコミュニケーションしながら、お客様とツアーデスクとが一緒になって、ななつ星のサービスをお客様合わせに仕立てていくのです。まさに、サービスはお客様と一緒に作るものという「共創」を体現しています。徐々にワクワク感も高まっていきます。

こういったプロセスを経て当日を迎えると、今まで想いを共にして旅を一緒に作り上げてきたサービススタッフからの温かさに触れたとき、出発の駅のホームで感動の涙が流れるのです。そして、お客様の旅への想いはサービススタッフ全員にも共有されているので、旅が始まってからも心温まるサービスは続いていきます。
 

サービスの「本当の」勝負プロセスを見つける

ななつ星の「出発のホームでの感動」にフォーカスしてみると、そのサービスの「本当の」勝負プロセスを明確にしてサービスを組み立てるべきであることが分かります。ななつ星の場合、旅の最中もさることながら、お客様と一緒になって旅を作り上げる「出発前の準備プロセス」が、極めて大切な勝負どころです。勝負プロセスを前倒しして、他にはない感動サービスを実現しているといえます。

それでは、自社のサービスの本当の勝負プロセスとはどこだろうか?業界内や社内で当たり前のように言われている勝負どころは、本当にそうなのだろうか?是非、見つめ直してみてください。

例えば、サービス名や活動テーマから考えたら、一見本業でなさそうなプロセスが勝負どころになっているケースはたくさんあります。

・提案活動は、「提案プロセス」でいくら頑張っても受注を取ることはできません。むしろお客様の身内になって、どんな提案が必要かを一緒に考える「相談プロセス」でお客様の心を掴まなければ、提案活動はうまくいかないことがよくあります。
・お客様相談窓口にかかってくる住所変更の電話は、自動化するともったいない。「住所変更くらいはWEB入力してもらった方が楽で良いのでは」と思うかもしれませんが、住所変更にはお客様の人生の幸せな一大事が関わっていることが多いものです。家を買った、結婚した、就職した、進学したなど。こういった電話こそ、ひと手間かけて人が対応できれば、心からのお祝いの言葉やお手紙を贈るなど、お客様からの評価をグッと高めるチャンスにできるのです。
・販売サービスは「販売がゴール」ではありません。お客様は「買ってからがスタート」。販売サービスは、いかに購入後のお客様の事前期待に寄り添えるかが、サービスビジネスの成否を決める時代になりました。

実は日本サービス大賞を受賞したサービスの中には、この「勝負プロセス」を、前倒ししたり新たに生み出すことで、他にはない優れたサービスに仕立てているものが他にもあります。是非、自社サービスの本当の勝負プロセスはどこなのかを見つけて、サービスを磨き上げるヒントを掴んで頂けたら幸いです。
 

応援したくなるサービス

最後に、ななつ星の素晴らしさを語るうえで欠かせないことがあります。それは、九州という地域の活性化に貢献しており、地域に愛され、地域の希望になっている点です。ななつ星の沿線では、お願いしたわけではないのに、地域の方々が自主的に列車に手や旗を振り、沿線に花を植え、イベントを開催したりと、地域一丸となってななつ星のサービスを応援しています。また、ななつ星を通して、地域の方々自身が、九州の良さを再認識して、誇りを持てるようになったのです。サービス、お客様、地域、それぞれが一体となって、優れたサービスを共創している点も、ななつ星の素晴らしいところだと思います。

業種や地域や規模は違っても、サービスの本質は同じです。日本らしい優れたサービスのポイントをひも解くことで、サービスにますます磨きをかけるきっかけになればと思います。
 

--------------------------------------------------------------------------------

<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/