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【連載】CS向上を科学する

2015年7月15日

【CS向上を科学する:第13回】サービス事業の課題(2/2)~脱却すべき2つの”現場任せ”~




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己



 前回に引き続き、製造業とサービス業の特徴を比較することで、サービス事業の難しさや課題について、サービスサイエンスの視点でひも解いてみたいと思います。

 今回は、東京大学の藤本隆宏教授が提唱されている、産業は情報を“転写”するビジネスであるという「情報転写モデル」をヒントにしてみようと思います。この情報転写モデルでは、製造業では「製品の設計情報を素材に転写することで価値を生み出している」とされています。つまり、自動車メーカーであれば、開発部門が作った自動車の設計情報を、生産部門がプレス機や金型を使って鉄板に転写して部品をつくり、それを組み上げて自動車を製造して、価値ある自動車をお客様にお届けしているというわけです。これに対してサービス業を比較してみると、大きな課題が2つ浮かび上がりました。

サービスは設計情報を人に転写して価値を生み出している

「サービスの設計情報をサービススタッフに転写することで、価値を生み出している」と捉えることができます。モデルとしては製造業と同じですが、詳しく見ていくと、興味深い違いに気付きます。

 はじめに、「転写」に着目してみましょう。製造業では設計情報をモノに対して転写します。自動車であれば鉄板に転写してボディーのパーツをつくります。その転写スピードは秒単位で、短時間のうちに大量で均質な転写が可能です。しかも、一度転写したら安定的にその形を維持することができます。自宅のガレージに停めてある自動車が、ある朝鉄板に戻ってしまった、ということはあり得ないですよね。

 では、サービス業における転写はどうでしょうか。サービス業では、サービスの設計情報を人に対して教育やトレーニングという形で転写することになります。この転写は決して秒単位ではできません。何時間も何日もかけて教育やトレーニングを行っていく必要があります。しかも、転写対象が人なので、徐々に効果が薄れてしまったり、忘れてしまったりと、転写前の状態に戻ってしまうことがよくあります。「先週、あんなにトレーニングしたのに、今日、また同じミスをした」ということはサービスの現場では日常茶飯事ですよね。

 このように「転写」について製造業とサービス業を比較してみると、サービス業において「転写」が極めて重要であることが分かります。しかし実は、教育やトレーニングに熱心なのは製造業の方なのです。ではサービス業ではどうしているのでしょうか。多くの会社では、「経験を積みなさい」「背中を見て学びなさい」と言って、いきなり現場に立たされる。そんな現場任せな教育トレーニングしかできていないことがほとんどです。よって、サービス向上のためにはサービスの教育やトレーニングに組織的に取り組まなければならないという課題が明らかになりました。

サービスにだって設計情報が必要

 次に「設計」も比較してみたいと思います。
 製造業において、設計にはヒトも時間もお金もつぎ込んで、命がけで取り組んでいます。それに対して、サービス業ではどうでしょうか。会社の組織図を見ても、「サービス設計部」という部署すらない会社がほとんどです。実際には、サービスを設計は「現場任せ」で、現場のサービススタッフが経験やセンスで良かれと思うサービスを考えて提供しているのです。これでは、サービスの内容や品質がばらつくのは当然と言えます。つまり、サービスにおける2つ目の課題は、「サービス設計」です。サービスのレベルアップのためには、組織的にサービスを設計して運用していく必要があるのです。

「設計」と「教育トレーニング」を組織的にテコ入れする

 このように、製造業とサービス業を「情報転写モデル」を参考にしながら比較してみると、CS向上やサービス向上の大きな課題が浮かび上がってきます。少し極端に表現すると、サービスの現状は、「非常にあいまいなサービスの設計情報を、転写が難しいヒトに対して、現場任せな教育トレーニングで転写しようとしている」と言えます。これではなかなかうまくいかないのも当然と言えるでしょう。 サービスでお客様に喜んでいただき、サービスで差別化するためには、「サービス設計」と「サービス教育トレーニング」について、組織的にテコ入れできるかがカギになるのです。

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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/