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【連載】CS向上を科学する

2015年6月3日

【CS向上を科学する:第11回】「サービスプロセスのモデル化」で共創サービスを設計する(2/2)~現場の経験知を、組織の力に変える~




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己



 「サービスはお客様と一緒に作るもの」。勝手に作ったサービスではお客様に喜んでいただくことはできない。お客様とサービスを共創する時代になりました。そこで前回から、共創サービスを実現するためのサービス設計手法として、プロセスのモデル化について取り上げています。サービスプロセスのモデル化は、サービスプロセスに沿ってお客様の事前期待と、それに応えるためのサービス品質を対応させていくことで、高い顧客満足を得られるサービスを設計するというものです。このプロセスのモデル化における3つのポイントのうち、前回は1つ目の「サービスプロセスを分解して定義する」について見てみました。サービスプロセスの定義は慣れているようで、実は上手くできていなかったと気付いて頂けたと思います。さて、今回は残る2つのポイントにも注目してみたいと思います。
 

(ポイント2)プロセスごとに、満たすべき事前期待を定義する

 特にここでは、お客様から高い評価や高い満足度を頂くために満たすべき事前期待は何かについて意識する必要があります。当連載で既に触れましたが、全てのお客様に共通的な事前期待よりも、お客様ごとに異なる事前期待(個別的事前期待や状況で変化する事前期待、潜在的な事前期待)にフォーカスして事前期待を定義する方が効果的なプロセスモデルだといえます。すべてのお客様に共通的な事前期待に応えても、お客様にしてみれば「当たり前サービス」でしかないことが多いものです。
  *事前期待については、第2~3回(事前期待を科学する)の記事をご覧ください。

 こうしてプロセスごとに事前期待を明らかにしていくことで、今までのサービスでは事前期待に応えられない部分が明らかになります。そこがまさにサービス改善のポイントなのです。

 また、プロセスごとに事前期待を定義してみると、お客様にとって重要なプロセスが見えてきます。例えば、「サービスの利用には慣れているので手短に済ませたい」という事前期待のお客様は、「要望への対応プロセス」を重視することでしょう。しかし一方で、「サービス利用は不慣れなのでじっくり相談したい」という事前期待のお客様にとっては、要望への対応プロセスよりもはるかに手前の「ご相談プロセス」が最も重要なプロセスになりそうです。このように、サービスプロセスの中で特に重要なプロセスを明確にすることは、現場に「すべてのプロセスを全力で頑張れ」と根性論で指示を出すよりも、はるかに効果的だと言えます。
 

(ポイント3)期待に応えるために発揮すべきサービス品質を定義する

 これまでに、サービスプロセスとお客様の事前期待を定義してきました。そこで今度は、お客様の期待に応えるための努力のポイントを明らかにするために、発揮すべきサービス品質を定義します。ただ単に「サービス品質を上げろ」と言われても、具体的に何をしたらよいのかピンとこないというのが、現場の本音だと思います。そこでサービスサイエンスでは、サービス品質を次の6つに分解して定義しています。「正確性」「迅速性」「柔軟性」「共感性」「安心感」「好印象」これら6つはどれも大切なものばかりですが、その中でも特にどのサービス品質を発揮することに価値があるのかを、プロセスごとに定義することが大切です。
  *サービス品質については、第6回(サービス品質向上、6つのポイント)の記事をご覧ください。

 このとき気を付けたいことがあります。サービス品質の議論を進めていくと、いつの間にか事前期待への意識が薄れてしまい、自分達が普段の業務で何に力を入れているかについての議論ばかりしてしまいます。すると、後から冷静になって見返してみると、ここで議論して決めた「発揮すべきサービス品質」が、ポイント2で定義した「満たすべき事前期待」に全く合致していないことに気付きます。そしてこの結果を見て、いかに普段のサービス品質向上やCS向上の議論が、事前期待への意識が足りず、お客様不在な議論になってしまっていたかを実感して反省されるケースも少なくありません。

 また、サービス品質の議論でよく挙がるのは、「正確性と迅速性が最も重要だ」という意見です。ミスをしてお客様にご迷惑をおかけしてはいけない、お客様をお待たせしてはいけない、という思いからの意見です。確かに一理あるかもしれません。しかし実は競合もここには力を入れていて、お客様からすると「正確で迅速なサービスは、どの会社も同じでしょ」と思われてしまっていることが少なくありません。競合サービスとの差別化も意識しながら、発揮すべきサービス品質について議論する必要があるのです。
 

サービスプロセスのモデル化でワンランク上のサービスを

 このようにサービスプロセスをモデル化すると、明日から具体的にどのプロセスで何をすると、お客様から高い顧客満足を頂けるのかが明確になります。また、現場で評価の高いサービススタッフが、どのプロセスでどんな知恵や工夫を発揮しているのかも見える形になります。このサービス設計に基づいたサービス提供や人材育成を行うことで、今まで経験やセンスだけに頼っていた現場任せでバラつきの大きなサービスから脱却して、ワンランク上のサービスを組織的に実現することができるようになるのです。
 

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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/