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【連載】CS向上を科学する

2015年4月2日

第8回 CS向上の秘訣は、お客様の定義の仕方にあり~目標地点が定まれば、次の一手が見えてくる!~




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己

これまでCS向上(顧客満足向上)やサービスの本質について、理論や考え方、努力のポイントなどをご紹介してきました。このように、目に見えないサービスをサービスサイエンスの視点で少しロジカルに捉えるだけで、今までよりはるかに具体的な努力のポイントが明確になり、効果を挙げられるようになります。
*特にCSやサービスの本質については、第1回(顧客満足の本質とは?)前回(サービスの本質に迫る、サービスの定義)の記事をご覧ください。

しかし、実際にCS向上やサービス改革に取り組む際には、「一体、何から手を付けたらよいものか」と戸惑ってしまうことも少なくありません。そこで今回は、明日から取り組みを始めるための王道についてご紹介します。


闇雲に取り組んでもうまくいかないCS向上

目標を据えずに、闇雲にCS向上やサービス改革に取り組んでも、なかなかうまくいきません。そこで、取り組みの目標地点として、「満たすべき事前期待」を定義することが極めて重要です。そのためには、お客様の定義の仕方を変える必要があります。

お客様の定義は、ほとんどの企業では、様々なお客様がいるにもかかわらず、それをすべて十把一絡げにして「お客様」の一言で済ませています。もしくは、お客様を年齢や性別、職業や家族構成などの属性情報で定義しています。例えば「30代独身女性」や「大手製造業の経営企画部」といった具合です。

実はこのようなお客様の定義では、サービスの現場はピンとこないのです。「30代独身女性にサービスで満足していただくには、どうしたら良いか?」「大手製造業の経営企画部からお仕事をいただくにはどうしたら良いか?」と言われても、現場では明日から具体的に何をしたらよいのかピンとこないのです。

そこで、「事前期待」でお客様を定義することが極めて有効です。


「事前期待でお客様を定義する」とはどういうことか

例えば、保険の加入相談窓口での対応で見てみましょう。
保険の加入相談にやって来るお客様には、例えば以下のような事前期待の違いがあります。

  • 保険の内容について、「できるだけ安心な保険に入りたい」、それとも「そこそこ安心な保険でよい」。
  • また、予算感については、「納得できれば高くてもよい」のか、「できるだけ安い保険に入りたい」のか。
  • そして、相談の進め方について。「保険は複雑で考えるのが面倒なので、スタッフにお勧めしてほしい」のか、それとも「保険は複雑なので、だまされたくないので自分で理解して決めたい」のか。

この3つの事前期待の違いを意識して、お客様をタイプ分けしてみると、下図のようになります。これを見ながら、相談窓口にやって来るお客様に喜んでいただき、保険に加入してもらうにはどのように対応すべきかを考えてみましょう。
 

事前期待の違いによってサービスはガラリと変わる

例えば図の右上に注目してみましょう。
保険内容については「できるだけ安心な保険がよい」、予算については「納得できれば高くてもよい」という右上の一角のタイプのお客様は、納得できれば高い保険に入っていただける可能性があります。保険会社としては、ぜひこのタイプのお客様から契約をいただきたいものです。
ただし、このタイプのお客様にも、相談の進め方への事前期待には違いがあります。

「自分で理解して決めたい」というお客様には、相談窓口のスタッフができるだけ丁寧な説明と小まめなQ&Aを繰り返すことで、とことん納得していただく必要があります。
一方で、「考えるのが面倒なので、自分にふさわしい保険をお勧めしてほしい」というお客様に対して、同じように丁寧な説明と小まめなQ&Aを始めると、「やっぱり保険って面倒くさい」と思われて帰られてしまう恐れがあります。そこでこの「お勧めしてほしいお客様」には、スタッフがお客様のご要望を的確に把握したうえで、ドンピシャな提案をしなければなりません。

このように、保険の内容や予算感に対する事前期待が同じお客様であっても、相談の進め方に対する事前期待の違いによって、相談窓口の現場でのサービスは180度変えなければならないことが分かります。「事前期待」でお客様を定義すると、明日から具体的にどんな努力をすべきかについて、誰でもピンとくるのです。


 

「満たすべき事前期待」が分かれば、次の一手が見える

先ほども触れましたが、多くの企業では現在、いろいろなお客様を十把一絡げにして「お客様」としか定義できていなかったり、属性情報でしかお客様を定義できていないことがほとんどです。これでは現場はピンときません。「30代独身女性」のお客様に喜んでもらって保険加入者を増やそうと言われても、保険の相談窓口のスタッフは「いったい何をしたらよいものか・・・」と困ってしまいます。

そこで、「事前期待」でお客様を定義すれば、「できるだけ安心な保険がよくて、納得できれば高くてもよい。なおかつ、お勧めしてほしい。」というタイプのお客様に喜んで契約してもらうためには、具体的にどんな努力をすべきか、誰でもピンとくるのです。

このようにお客様の定義の仕方を変えることで、努力のポイントが今までよりはるかに明確になり、CS向上やサービス改革のために、明日から具体的に何に取り組めばよいかが一目瞭然になります。掛け声や建前なCS向上から脱却して、効果的で具体的なアクションに繋がるCS向上活動を進めるために、「我々のサービスが満たすべき事前期待は何か?」について、是非議論していただければ幸いです。

*)「事前期待」とひとことで言ってもひとそれぞれ。事前期待の構造と勘所を理解したい方は、第2回第3回(事前期待を科学する)の記事をご覧ください。

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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/