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【連載】CS向上を科学する

2015年3月10日

第7回 サービスの本質に迫る、サービスの定義~サービスの活動が進まない原因はここにある~

 




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己

 

「ところで、サービスの定義って何でしょうか?」日夜サービスについての議論をしていたり、長年サービス向上の取り組みを進めてきた企業でも、「サービスの定義は?」と問われると、うまく答えられなかったり、人によって違う答えが返ってきます。実はここに、サービス向上や顧客満足向上のヒントが隠されています。

例えば、サービス改革や顧客満足向上について取り組んでいるのだけれど、いったい何から手を付けたら良いか分からない。活動は立ち上げたが、議論や活動がなかなか進まない。過去に何度も同じような取り組みをしてきたが、いつも上手くいかずに立ち消えていく。このように苦戦していることが多いのが実態です。この原因をひも解いていくと、サービスの定義が曖昧なことがほとんどです。

サービス改革に取り組んでいるにもかかわらず、そのメンバーが「サービスの定義」すら共通に認識していない状況では、議論や活動が噛み合わないのは当然といえます。サービス改革の第一歩は、サービスの定義とその本質を理解するところから始まるのです。

また、「我が社はサービス業である」という意識を高めることで、サービス改革を推進する企業が増えています。例えば、サービス改革で有名な大垣共立銀行(岐阜県大垣市)は、頭取の土屋氏が「我々は金融業ではなく、サービス業だ」という言葉を掲げて、スタッフ一人ひとりの意識を変え、組織一丸となってサービス変革を推進した事例として有名です。

サービスサイエンスでは「全ての産業はサービス業である」と定義しています。つまり、銀行以外にも、製造業や農業、医療、学校、公共事業、士業、IT企業や物流業など、どの業界であっても、自社のビジネスを「サービス業」として捉え直すことができるのです。「我々はサービス業だ」という意識を持つことで、サービス向上や顧客満足向上のヒントが見つかる企業はまだまだあるのではないかと思います。


サービスの定義からサービスの本質を掴む

それでは早速、サービスの定義を理解することで、サービスの本質をあぶり出してみたいと思います。サービスサイエンスでは、サービスを次のように定義しています。


 


『人や構造物が発揮する機能で、お客様の事前期待に適合するものをサービスという』

この定義のポイントをいくつか挙げてみたいと思います。

まず、『人や構造物が・・・』の部分です。
サービスの定義に「構造物」とあります。実は人だけでなく構造物もサービスを提供できるということなのです。例えばコインランドリーに人はいませんが、サービス業ですよね。また「人」の部分にも重要なポイントが潜んでいます。サービス提供者は、自分自身がサービスを提供する人だという認識は誰でも持っています。しかし、お客様から見たら「自分自身もサービスの一部として評価されている」という認識を持っていない人が多いように思います。サービスを提供する「人」もサービスの一部だということを、今一度肝に銘じる必要がありそうです。

次に、『発揮する機能で・・・』の部分です。
「サービスとは、機能の発揮である」という定義は、多くの学者の方々が提唱しています。ただし、この定義の最大のポイントは、「機能の発揮を、すべて無条件にサービスと呼ぶわけではない」という点です。すなわち、機能の発揮の中で“お客様の事前期待に適合するものだけ”をサービスというのです。裏を返すと、お客様の事前期待に適合していない機能の発揮は、サービスとは呼んでもらえないことになります。では、何と呼ぶのか?それは、「余計なお世話」や「迷惑行為」「無意味な行為」と呼ばれてしまうのです。実に残念ですよね。

つまり我々は、サービスを提供しようと思ったら、お客様の事前期待を掴まなければならない。さもなければ、サービスを提供することすらできないということなのです。サービスの本質は「お客様の事前期待」なのです。

ただし、「事前期待」と一言で言っても、お客様ごとに様々です。簡単に「事前期待を掴め」と言われても、具体的に何をしたら良いものかと、現場は困ってしまうかもしれません。そこで、「事前期待とはいったい何なのか?」について、事前期待の構成要素と、事前期待に応えるための努力のポイントを体系立てて理解することが重要です。これについては、「当連載の第2~3回:事前期待を科学する」の記事で触れていますのでご覧ください。


サービスは目に見えないからこそ、定義と本質の共有が肝心

いずれにしても、サービスの定義から、「お客様ごとの事前期待を掴み、それに応える」ことがいかに重要であるかがお分かりいただけたのではないかと思います。しかし、サービス向上や顧客満足向上の活動の現場において、「サービスとは?」「顧客満足とは?」「事前期待とは?」「サービス品質とは?」などの定義を、組織全員で共有していないケースが非常に多いのが現状です。こういった本質的な考え方や価値観が組織で共有されていないと、議論や取り組みが一向に噛み合わず、活動が前に進まないという事態を招きます。

サービスは目に見えないものだからこそ、ぜひともこういった定義や本質をしっかりと全員で共有し、本質を捉え、効果的で納得感のある活動を推進していただければと願っています。
 

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<筆者プロフィール>


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/