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【連載】CS向上を科学する

2014年12月11日

第3回:事前期待を科学する(2/2)~CS向上のカギは、どの事前期待に応えるか~

 




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己

 

 CS向上を科学する連載第3回の今回は、第1回に浮かび上がった顧客満足の本質をより深く理解するために、「事前期待を科学する」について取り上げたいと思います。前回は、「事前期待」とひとことで言っても、意外に複雑な構造をしていることがご理解いただけたと思います。この構造の中でも「事前期待の持ち方」にフォーカスすることがCS向上には有効であり、更には「事前期待の持ち方」の中でも共通的な事前期待よりも、残りの3つの事前期待(個別的・状況変化・潜在的)に応える方がお客様からの評価は高まる傾向にあるというポイントを整理しました。顧客満足の本質として、事前期待の構造と勘所をしっかりと理解することは、CS向上の取り組みの成否の分かれ道になると思います。そこで今回は、CS向上の勘所となる個別的な事前期待から、その中身と期待に応えるための努力のポイントについて見ていきたいと思います。


お客様ごとに期待が色々なのは当たり前



「個別的な事前期待」とは、お客様1人1人で異なる事前期待のことです。前回の記事と同様にホテルを例にしてみると、「枕はそば殻で厚手のものでないと寝苦しい」「枕は羽毛で薄いものが好き」という様に、お客様ごとに異なる事前期待が該当します。

さて、この個別的な事前期待に応えるために有効な努力のポイントは何でしょうか。ここでマニュアルやチェックリストをいくら整備しても、あまり効果的ではありません。一律なマニュアルサービスをいくら磨いても、1人1人で異なる個別的事前期待には応えることはできません。

そこで有効なのが「顧客カード」や「顧客データベース」を整備して、現場で活用することです。既に顧客データベースを持っている会社でも、顧客との接点で活用されていなかったり、顧客データの内容が年齢や住所などの属性情報しかなくてCS向上のために必要な情報が掴めていないことが多いようです。「サービスはお客様と一緒につくるもの。」サービスの現場で顧客情報が役に立たないと意味がないですよね。

実はこの「個別的な事前期待」に応えると、我々が思っている以上にお客様に感激して頂けます。例えば、ホテルで有名な事例ではこんなものがあります。ホテルで寝つけなくてフロントに電話をして枕を自分好みのものに変えてもらったら、その日はぐっすり眠れました。そしてまた別の機会に同じ系列で別の場所のホテルを利用した際に、チェックインを済ませて自分の部屋に入ったら、何も伝えていないのに初めから自分好みの枕がセットされていて感激した、といった具合です。自分の好みを知ってくれている。自分の名前を覚えてくれている。他のお客さんとは違う要望に快く対応してくれた。個別的な事前期待に応えるだけでも、十分に感動サービスは実現できるのです。


同じお客様だって時と場合によって期待は変わることがある

続いては「状況で変化する事前期待」です。これは、同じお客様であっても状況によってはいつもと違う事前期待を持っているというものです。例えば、私が行きつけのレストランでいつも初めからワインを飲む趣味があるとします。そこで少し温かくなってきた季節にお店に入ったら、顔見知りのマスターが私の顔色を見て「松井さん、今日は生(ビール)でしょ!」と言って、私の気持ちにドンピシャだとホスピタリティーを感じますよね。他にも、急いでいるとき、疲れているとき、暑い日、雨の日、トラブル時など、様々な状況が考えられそうですね。

この様に状況で変化する事前期待に応えるには、実は先ほど登場した顧客データベースをいくら整備しても効果的ではありません。状況で変化する事前期待は「いつもと違う」事前期待だからです。ではどんな努力が効果的なのでしょうか?それは、お客様の事前期待の変化に気付くための「共感性」や「観察の視点」を身に着ける教育やトレーニングです。最近注目されている行動観察手法のエスノグラフィーは、この類の事前期待を掴むために活用すると効果的かもしれませんね。


「思ってもみないサービス」言うは易しだが、、、



最後に「潜在的な事前期待」。思ってもみないサービスを受けて感動した、という経験の元になる事前期待です。例えば、書店でしばらく立ち読みをしている妊婦の方にそっと椅子をお出ししたら感激して頂けた、などです。しかし、お客様も意識していない潜在的な事前期待に応えることは容易ではありませんよね。いくら教育やトレーニングを積んでも限界があります。そこで効果的な努力のポイントが「成功体験の共有」です。現場のスタッフは、偶然かもしれませんが「こんなことをしたらお客様に感激して頂けた」という成功体験を、一人1つは持っているはずです。その情報を組織で共有しておくと、別のスタッフが同じような場面に遭遇した際に、感動サービスを再現できる可能性が高まります。この事例共有を、サービスサイエンスの様なロジカルな視点で分析してから共有すると、さらに再現性は高まると思います。


事前期待を科学するとCS向上成功の鍵が浮かび上がった
「お客様の期待に応えよう」と言われてもお客様の期待は100人100通りで明日から何をしたら良いかピンとこないという状況から、事前期待の構造と努力のポイントを理解することで、具体的に明日から何を努力すべきか見えてきそうです。それに、「お客様の潜在ニーズを掴め」という様に、難易度の高いタイプの事前期待に応える努力をする前に、個別的な事前期待や状況で変化する事前期待に応える努力をするだけでも、十分な成果が出せるのではと思います。

これまで見てきたように、事前期待とひとことで言っても、その構造は意外に複雑です。しかし、前にも触れましたが、この構造と努力のポイントを理解しているかどうかが、CS向上やサービス向上を成功させるための大きな分かれ道になります。

サービスサイエンスではこのように、今まで当たり前のように使っていた「期待」や「顧客満足」「サービス」などの言葉の本質からしっかりとロジカルに理解することで、今までよりも一歩踏み込んだ具体的な議論、納得感のある組織的な活動、そして経営貢献に直結する活動を推進するために実践され、成果を挙げています。今後も「CS向上を科学する」連載を通して、読者の皆様のCS向上の取り組みのお役に立てたらと思います。

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<筆者プロフィール>

 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/