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【連載】CS向上を科学する

2023年9月11日

【CS向上を科学する:第119回】CXの落とし穴 ギラつくジャーニーマップ

 


 

松井サービスコンサルティング  
代表/
サービス改革コンサルタント  
松井 拓己  

 

 

CXの取り組みも一巡し、そろそろ本来の目的に向かってステージアップしたいと考えている企業が多くなっています。その手始めが、カスタマージャーニーマップのテコ入れです。「カスタマージャーニーマップを設計したものの絵に描いた餅になっている」「実践はしてみたものの、顧客や現場からの反応がイマイチで、思ったような成果や変化が生み出せていない」との相談は少なくありません。

その原因を探ろうと、実際に設計したカスタマージャーニーマップを拝見させていただくと、圧倒的に多いのがギラついたカスタマージャーニーマップです。サービス提供者の都合を顧客に押し付ける顧客不在のカスタマージャーニーマップになってしまっているのです。

 

ジャーニーマップを顧客に見せる

自社のカスタマージャーニーマップをそのまま顧客に見せることができるでしょうか?「とてもじゃないけれど、顧客には見せられません!」ということであれば、要注意かもしれません。顧客不在のカスタマージャーニーマップには、よく次のようなことが書かれています。

―――カスタマージャーニーマップのフェーズ1で顧客の関心を引き、フェーズ2で顧客をその気にさせる。フェーズ3で契約を取り、フェーズ4で顧客を囲い込んで、ぼろ儲け。―――

少し極端に表現はしているものの、そこに描かれているのは、サービス提供者が顧客を「歩ませたい」ジャーニーであって、顧客が「歩みたい」ジャーニーになっていません。これはサービス提供者を主語にして、いかに稼ぐかが設計されており、かなりギラついているように見えるので、私はこれを「ギラギラジャーニーマップ」と呼んでいます。

本来CXは、顧客を主語にしてサービスプロセスを通して、いかにして体験価値を高めるかを設計するものであるはずです。顧客自身が「こんな経験や体験ができたら良いな」と期待するような、顧客が「歩みたい」ジャーニーマップを設計しなければなりません。それは「キラキラジャーニーマップ」とでも呼べそうです。


なぜジャーニーマップが顧客不在になるのか?

カスタマージャーニーマップには、顧客像としてペルソナをちゃんと定義し、顧客の行動や感情の変化までも描かれているのに、なぜ「顧客不在」になってしまうのでしょうか。その答えは、自社で作成したカスタマージャーニーマップと、当連載で取り上げたサービスプロセスモデルのテンプレートを重ねてみると浮かび上がります。それが毎度お馴染みの「事前期待」です。

サービスプロセスモデルについて、詳しくはこちら:第10回「サービスプロセスのモデル化」で共創サービスを設計する(1/2)~現場の経験知を、組織の力に変える~

カスタマージャーニーマップのテンプレートの多くには、顧客の事前期待が書かれていません。もしそれらしきことが書いてあっても、おまけのように書かれていることが多く、事前期待を基点に設計しているとは言い難い状況です。これでは、プロダクトアウトな発想で顧客不在のサービスを設計してしまうのも無理はありません。サービスの価値は、応える事前期待によってガラリと変わります。体験価値を高めるならば、どのような事前期待に応えるかを中心に考えて設計することが欠かせないのです。

 

カスタマージャーニーマップをテコ入れしよう

既存のカスタマージャーニーマップには、テコ入れのポイントが2つあります。1つ目は、顧客像(ペルソナ)の設定の中に事前期待を明示することです。想定する顧客のプロフィールや人柄、価値観については細かく設定されていると思います。これを活かせば、この顧客にとっての「価値ある事前期待」を解像度高く想定し、的を見定めることができるはずです。ここで定義した事前期待の的に応えるために、カスタマージャーニーマップがどうあるべきかを考えることが、テコ入れの第一歩になります。

2つ目は、プロセスごとに事前期待を定義することです。先ほどの顧客像に明示した事前期待の的を、プロセスごとにブレイクダウンして具体的に定義していくのです。これによって、うまく事前期待が書けないプロセスや、具体策の内容が事前期待とズレているプロセスを炙り出すことができます。これが、ギラつきの原因とも言えます。顧客の事前期待を意識せずに、提供者の都合で設計されたプロセスを特定して、事前期待に応える形にテコ入れしていきましょう。

提供者都合を押し付ける「ギラギラジャーニーマップ」から、顧客が歩みたいと思える「キラキラジャーニーマップ」に変革できれば、顧客も現場もその実現に前向きになり、顧客接点での成功体験が積み上がることで、CXを目的に向かって推進できるようになるはずです。

 
 

※参考書籍はこちら

価値共創のサービスイノベーション実践論

日本の優れたサービス 1、2




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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:価値共創のサービスイノベーション実践論(生産性出版)、日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版) ほか
 
▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/