連載コラム

    SPRINGとは

    入会案内

  • 日本サービス大賞
  • JCSI 日本版顧客満足度指数
  • 大人の武者修行バナー

    cafeバナー

    SPRINGフォーラムバナー

    日本サービス大賞

    日本サービス大賞

    会報バナー

    書籍紹介

    提言・宣言

  • 提言・宣言
  • ハイ・サービス日本300選

     

  • リンク
  • SES Service Evaluation System:サービス評価診断システム

     開発・運営:(株)インテージ

【連載】CS向上を科学する

2023年8月7日

【CS向上を科学する:第118回】ニーズと事前期待の違い

 


 

松井サービスコンサルティング  
代表/
サービス改革コンサルタント  
松井 拓己  

 

 

「ニーズと事前期待は何が違うのですか?」異業種交流型のディスカッション会であるSPRING Caféが今年度も始まりました。17社30名ほどのサービスやCSの推進に熱心な方々が集い、これから1年間かけて毎月、様々なテーマで議論やワークや交流を進めていきます。その初回に“サービスとCSの本質を科学する”と題してダイジェスト講演をさせていただき、基礎理論を今期参加の皆さんで共有しました。その際にQ&Aの時間に挙がったのが、冒頭の質問です。これはよくいただく素朴な質問なのですが、この違いは実践をしてみると大きな気付きが得られるポイントでもあります。また今回、SPRING Caféの懇親会でこの議論が盛り上がったので、その一端を紹介したいと思います。

 

思考のクセが盲点をつくる

私はこの質問に対しては、まず「どちらも同じようなものだと思っています」とお答えしています。これは質問してくださった方の意図に合っていないと思いますが、実践という意味では、事前期待もニーズも厳密な違いを気にし過ぎて縮こまってしまうより、どちらも同じようなものとして捉えて議論をすれば良いと思っているからです。でも、「いざ議論をしてみると明確に違いが生じます」と加えています。

ニーズやウォンツの議論はどの会社でも行われていることと思います。その分、実は「思考のクセ」が付いてしまっていることが多いのです。ニーズとして挙がりやすいのは、自社のメニューや機能、見積もりに反映しやすい議論です。何が欲しいのか?どんな機能が必要か?予算はどれくらいに抑えたいか?などが代表的でしょう。提供者としての「落としどころ」を見据えた議論になってしまい、顧客の本音に迫れないケースが多々あります。

一方で事前期待という少し耳慣れない言葉で議論をすると、ニーズの議論では少し格好悪くて挙げられなかったような意見もどんどん挙がってきます。たとえば「感じの良い対応をしてほしい」とか「私の悩みに共感してほしい」など。これは一見すると、メニューや見積もりに反映できるニーズの議論に比べて、“細かい話“や”重要度の低い話“のように見えるかもしれません。しかし、まずはこういったことまで議論の土俵に上げて、なるべく盲点なく顧客にとっての価値を考えてみることはとても大切です。しかも、顧客にとっての真の価値は何かについて定義してみると、ニーズよりも事前期待の議論の方がカギを握っている傾向があるのです。

…という具合に質問にはお答えさせていただきました。これを受けて懇親会の中で、既に実践してくださっている企業の事例を伺ったので、簡単に紹介します。

 

ニーズに応えて、事前期待に応えられない

「我が社では、ニーズと事前期待は明確に違いがあると定義して実務で活用しています。」として、どのように考えているかを分かりやすく整理してくださいました。

ニーズには応えられたけれど、事前期待に応えられなかった場合を考えてみる。たとえば、資料請求の電話をしたら、すぐに送ってくれた。これで顧客のニーズには応えられました。しかし、実はその電話がなかなか繋がらず、やっと繋がったと思ったら、いかにも忙しそうに不愛想に対応されたとすると、事前期待には応えられていない、と考えることができます。これでは、この会社・サービスを利用したいという気持ちが削がれてしまいそうですね。

逆の場合はどうでしょう。
資料請求の電話をしたら、品切れで送ってもらうことができなかった。けれど、参考のWEBページを紹介してくれたり、該当ページのコピーを取って郵送してくれたり、不明点や不安点について丁寧に説明してくれたりと、親身に対応してくれたとします。これは、ニーズには応えられなかったけれど、事前期待には応えられたといえそうです。次も何かあったらこの会社・サービスに頼りたくなります。

もちろん、ニーズにも事前期待にも応えられればベストです。しかし、そうもいかないことは実ビジネスでは少なくありません。「安くしてほしい」というニーズに応えるために、「値引きしてあげました」という対応が、事業として正しい判断とは限りませんよね。事前期待を意識することで、顧客のニーズに応えられないけれど、この会社・この人に対応してもらえてよかったと思っていただくことはできます。事前期待に応えることで、「値段は高いけれど、これからも利用したい」と思っていただくことの方が重要だったりします。

 

ニーズと事前期待は何が違うのか?素朴な疑問から、重要な気付きや盲点を見出すことができるのも、サービスやCSを科学する醍醐味だと思います。


 

今年度SPRING Caféについて詳細は、こちらをご覧ください↓
【SPRING法人会員無料!7月~2月開催】SPRING Café2023



--------------------------------------------------------------------------------

<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:価値共創のサービスイノベーション実践論(生産性出版)、日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版) ほか
 
▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/