2023年7月10日
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前回に引き続き、市場創出型サービスイノベーションを実現しているMakuakeの、サービスデザインと価値共創のしくみに注目してみたいと思います。
(前回のコラムはこちら:第116回 市場創出型サービスイノベーションの着眼点とサービスモデル(1/2) ~新しいモノや体験の先行予約販売・応援購入マーケットプレイス「Makuake」~)
サービスデザイン:どんな事前期待を的にしているのか
Makuakeのサービスとしての価値を、当コラムの中核キーワードとしている「事前期待の的」で捉えてみましょう。事業者にとっては、在庫リスクを負う必要があり、生み出すことを諦めていたアタラシイものを、在庫リスクなく生み出すことができる、まさに「諦めていた事前期待」に応える価値を創出しています。ユーザーにとってはどうでしょう。特にコロナ禍においては行動が制限されて、以前のように街に繰り出してショッピングをすることがままならなくなりました。オンラインショッピングは目的買いが中心のため、効率的にモノは手に入る一方で、ウィンドウショッピングのようなワクワクするモノとの出会いは生まれにくい。Makuakeはまさにこの、オンラインでありながらも、思ってもみなかったアタラシイものとの出会いをしたいという「諦めていた事前期待」に応える場になっているのです。この点については、“百聞は一見に如かず”ですので、読者の皆さんも是非、Makuakeのサイトにアクセスしてみてください。私は実はキャンプが好きなのですが、Makuakeでキャンプをキーワードに検索すると、「こういうモノが欲しかったんだ!」「へ~こういうモノもあると確かに良いよね」「この取り組み、応援したいなぁ」と、ワクワクします。そして、次々にキーワードを変えて検索したい気持ちが湧いてきて、アレコレ見ているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまいます。まさに、諦めていた事前期待に応えてもらえたことで、次の事前期待がムクムクと湧いてくることを実感します。
このように事業者と消費者の両者が、アタラシイものに対して諦めていた事前期待のクロスポイントを見出して、そこにアタラシイものが次々に生まれ、アタラシイもの好きからの応援が集まる新たな市場を創出したと捉えることができます。
価値共創のしくみ:「アタラシイ」を共創する
先ほどからカタカナで「アタラシイもの」と表現していることが気になっている方もいると思います。Makuakeでは、ここにこだわりをもって、独自の基準で「アタラシイ」ことを定義して価値共創のしくみに結びつけています。サイト上には次のように記載されています。
―「アタラシイ」とは、既存の市場におけるコンセプトや技術、デザインなどの新規性だけとは捉えていません。実行者自身や商品、サービスから、サポーターが享受する価値に明確な差異があるものも「アタラシイ」と考えます。「アタラシイ」とカタカナ表記にしているのは、最新のものだけでなく後世に残すべく新しい挑戦をしているプロジェクトも多くあることや、未知のワクワク感を表現したいという意図があります。
― 実行者にとって「挑戦」や「ストーリー」があること。「Makuake」が掲げる「応援購入サービス」の特性上、通常のECサービスと異なり、実行者にはサポーターの応援を受けるに値する「挑戦」や「ストーリー」などの訴求ポイントがあるべきだと考えています。
単なる「最新」や「他にない」という意味に留まらず、応援を集めるに値する何らかの「挑戦」や「ストーリー」を含んでいるものを「アタラシイ」としているのです。単にスペックやデザインの「真新しさ」だけであれば、恐らくユーザーもさほどワクワクしないのではないかと思います。実行者の熱量がプロジェクトのストーリーとして可視化されるしくみが非常に重要です。これを可能にしているのがキュレーターです。全てのプロジェクトに担当キュレーターが付き、新商品の企画やマーケットデビューから売上規模拡大まで、一気通貫でサポートしてくれます。ユーザー(購入者)から多くの応援が集まるよう、「独自性」「便益」「必然性」の観点で企画のストーリー化も支援しています。この中でも「必然性」こそが、ストーリーを可視化する項目と言えそうです。
このキュレーターが価値共創の伴走者として機能するかどうかが非常に重要になってきます。そこで、キュレーター育成のプログラムや相互学習のしくみを構築しています。さらには、ノウハウを「コンフル」と呼ぶデータベースに蓄積し、月間約650件のプロジェクトを効率的かつ効果的にサポートできるようにモデル化されています。
このようにMakuakeは革新的なサービスモデルと、「アタラシイ」を共創するためのしくみを構築することで、「応援購入」という共創型開発マーケットプレイスを創出し、日本各地から新しいモノが生み出され、グローバルに広まっていく、全く新しい市場や商流を日本発で生み出しているのです。
今回は触れませんでしたが、Makuakeが持つ0次流通という独特の経済圏を活かして、金融機関や地方自治体と連携して、地域の出る杭を伸ばす取り組みも積極的に行っています。これからMakuakeの活躍の場がどのように広がっていくのか、非常に楽しみです。
★こちらのコラムを執筆されている松井氏がコーディネーターをつとめる
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<筆者プロフィール>
松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
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サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |