2022年11月7日
|
さて今年は第4回となる日本サービス大賞が発表される年です。コロナ禍の真っただ中での応募となった今回、受賞を勝ち取るサービスは、いったいどんな顔ぶれなのか。これまでとは違った期待感で楽しみにされている方も多いのではと思います。それに先立って10月に、生産性新聞にて日本サービス大賞の受賞企業の「その後の進化」について特集され、そこで光栄にもインタビューしていただきました。当連載の読者の皆さまの中には、記事を見逃した、生産性新聞を取っていないという方もいらっしゃると思いますので、インタビューで取り上げた事例や受賞後の進化の方向性について、その一端をご紹介できればと思います。
受賞企業の“その後”の進化
日本サービス大賞を受賞した企業の“その後”に注目してみると、当然ながらその歩みを止めることなく力強く進化しているのですが、コロナ禍においてそれが減速するどころか、むしろ加速しているようにさえ見えます。サービスの進化はどこに向かって、どのように取り組まれているのかを整理してみると、4つの方向性を見出すことができました。
※コロナ禍のように、外部環境が劇的に変化して先が読めない時代に、一体どうやって事業の危機を進化の原動力に変えているのかが気になる方もいると思いますが、それはまた別の機会で取り上げることにしたいと思います。
➀サービス価値そのものの進化=事前期待の的の進化
サービスの価値は、どんな事前期待に応えることを目指すのか(事前期待の的)によってガラリと変わります。つまり、サービスの価値を進化させるためには、その目標地点となる事前期待の的を進化させる必要があるというわけです。
アシックスの「3次元足形計測を基点とした価値協創サービス」(第3回・優秀賞)では、顧客自身ですら分かっていない足の形の計測・可視化によって、店舗を単なる「シューズを売る場」ではなく、「自分自身に真にフィットするシューズとランニングエクスペリエンスを実現する場」へと、店舗サービスの価値を変革しました。このサービスモデルが例えば、子供の足形を定期的に計測して足の成長を予測するサービスへと進化しました。「今の自分へのフィット」から、「子供の成長(未来)へのフィット」へと、事前期待の的が進化したと言えます。このサービスを基点にして、今後様々なサービスが結びつく進化への足掛かりになるのではと、非常に楽しみになりました。
さて、読者の皆さんのサービス事業には、価値の進化やイノベーションの目標地点として「事前期待の的」がきちんと設計されているでしょうか?
➁価値の生み出し方の進化=価値共創プロセスの進化
これは、価値そのものではなく、価値の生み出し方を進化させるというものです。「価値共創」という言葉をよく耳にするようになりましたが、そのためのプロセスやしくみが構築されていないと、現場任せで闇雲な取り組みになってしまいます。そもそも価値を「共創」するとはどういうことなのか?単なる価値への「適応」との違いを理解できているか?など、これまでにも当連載で度々触れてきた大切なテーマになります。
フォレストコーポレーションの「お客様参加型の家づくりサービス:工房信州の家」(第1回・地方創生大臣賞)では、顧客が自分の家に使う木を、家族で山に入って選んで伐るところから参加する家づくりを通して、家づくりのプロセスを通して家族がもっと家族になっていくという価値を実現しています。
同社が近年取り組んでいるのが、価値の生み出し方を「提案型」から「探索型」へと進化させるものです。最近は顧客自身が自分の真のニーズが分からない時代になったと言われています。その顧客にいくら提案しても、押し付けになるだけで価値を共創できません。なので、顧客のニーズやこだわり、家づくりの本当の目的を探し出すプロセスを大切にして、“提案する”のではなく、“一緒に探索する”価値共創プロセスです。これにより、フォレストコーポレーションでの家づくりの価値が、より強化され、顧客がより良く価値を実感できるようになっているのです。
「価値共創」という言葉を掲げている企業では、価値共創のプロセスやしくみは構築できているでしょうか?それを推進するスタンスが、顧客との価値の共創を妨げているということはないでしょうか?
(次回へ続く)
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス 1、2
--------------------------------------------------------------------------------
<筆者プロフィール>
松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
|
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |