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【連載】CS向上を科学する

2022年7月7日

【CS向上を科学する:第106回】価値を革新するサービスモデルで現場が覚醒する~つばめタクシーグループ(第3回日本サービス大賞 地方創生大臣賞)~

 


 

松井サービスコンサルティング  
代表/
サービス改革コンサルタント  
松井 拓己  

 

 

先日、埼玉県生産性本部が主催する特別シンポジウムにて、第3回日本サービス大賞の地方創生大臣賞を受賞したつばめタクシーグループの代表取締役社長である天野朝之氏に登壇いただき、その後のパネルディスカッションをご一緒させて頂きました。そこで、タクシーサービスの価値を革新するサービスモデルによって生み出された成果や変化、そこに至るまでの変革ストーリーを非常に臨場感を持ってお聞かせ頂きました。今回は、その中からサービスイノベーションに取り組むためのポイントを炙り出していきたいと思います。


タクシーサービスの価値を革新した「あんしんネットワーク」

タクシードライバーの99%が警備員資格者、200名が介護職員初任者研修有資格者であり、「あんしんネットワーク」サービスとして、24時間駆け付け介護、徘徊発見など、高付加価値なタクシーのサービスモデルを実現しています。(受賞事例の詳細はこちら

介護や駆けつけという役割を持ったことでタクシーは、顧客の玄関の中にまで入ってサービス提供できるようになりました。つまりこのサービスモデルによって、タクシーは「地域の移動インフラ」から『地域の安心サービスのインフラ』へと、価値を革新したと捉えることができます。まさに、タクシーに対する新たな事前期待を創出したのです。


サービス価値の革新が仕事の意味を変える

さてこのサービスイノベーションは、どのような波及効果を生み出したのでしょうか。それを象徴するエピソードを教えて頂きました。あんしんネットワークサービスを基点に、コロナ禍では不足する救急車のドライバーを担う「ドクターカー事業」への引き合いが拡大したと言います。その際、コロナへの感染リスクもあるドクターカー事業への注力を現場は歓迎しないのではないかと心配して、ドライバーにどう思うかをヒアリングしたところ、全員が口をそろえて「コロナでもドクターカーは辞めない」と答えたことで、事業の継続を決めたそうです。

ドライバーによくよく話を聞いてみると、最初は「自分はタクシードライバーなんてやりたくてやっているわけじゃない」なんて思っていた人もいるそうですが、介護や警備、ドクターカーなどのサービスに従事することで、顧客から「助かったよ!」と言われる機会が増え、この仕事をやっていて良かったという実感が得られるようになったようです。他にも、「自分の仕事は、人の命を守る仕事なんだ」と家族に誇れるようになったと語ってくれるドライバーもいるとか。仕事そのものを楽しめるようになったのです。

サービスの価値を革新したことで、タクシードライバーという仕事の意義を高めることができ、従業員が地域や顧客への貢献感を実感できる機会が増えたのです。そしてそれが、仕事や事業に対する使命感へと結びつくことで、事業の成長を現場主導でけん引できるようになったと言えます。サービスイノベーションは、顧客や市場に対するインパクトだけでなく、従業員にとっても意義のある取り組みであるべきなのです。


サービスイノベーションの進め方サービス価値の革新が仕事の意味を変える

つばめタクシーグループの進化はこれからも続いていきます。目指すは、いざという時に「助かったよ」と言われるタクシー。日本で一番「ありがとう」と言われる会社だそうです。

これまでに様々なチャレンジをしてきたつばめタクシーグループですが、その取り組みはだいたい、最初は10人に聞いても3人くらいしか賛成してくれないことが多かったと振り返ります。ではそれをどうやって事業の本流にしてきたのでしょうか。ポイントは、賛成してくれたメンバーと小さくてもチャレンジすることで、「やってみて良かった」という成功事例をつくることだそうです。そうすれば、チャレンジに参加してくれる仲間が増えたり、新たな資格を取得するモチベーションになるのです。

合言葉は「タクシーにできることはもっとある」。タクシーは半分は“空車“だそうです。あんしんネットワークサービスは、この価値を生まない空車の時間を付加価値化したサービスモデルであるともいえます。少し視点を変えれば、タクシーにもっとできること、ドライバーにもっとできることはあるのではないか。タクシー業界を面白くする。花形産業にする。つばめタクシーグループのサービスイノベーションの次なる進化が楽しみです!

 
 

※参考書籍はこちら

価値共創のサービスイノベーション実践論

日本の優れたサービス 1、2





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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:価値共創のサービスイノベーション実践論(生産性出版)、日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版) ほか
 
▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/