2022年3月3日
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ここ数回のコラムで、事前期待の的に見定めるべき「価値ある事前期待」をどのように見つけたらよいのかについて触れてきました。「事前期待の的」の定義次第で、サービスの価値や姿はガラリと変わります。そこで今回は仕上げとして、数ある候補の中からどのようにして事前期待の的を絞り込むのかについて取り上げたいと思います。
事前期待の的は、価値ある事前期待であれば何でも良いというわけではありません。サービスの価値を高め、事業成長を導くためのストーリーを込めることが大切です。当然ですが、このストーリーは、同じ業界内であっても、企業ごとにまったく異なるものになります。自分たちにしか描けない、「らしさ」の詰まったストーリーを事前期待の的に込めることが重要なのです。そこで、ストーリーを込めるために大切な4つの問いを紹介します。それは、4つのWhyです。「なぜ?」という問いの答えとして、その事前期待を的にすべき理由を明確にすることで、事業成長のストーリーを浮かび上がらせるのです。
Whyお客様:なぜお客様が選び続けてくれると言えるのか?
的にした「事前期待」に応えることが、本当に顧客にとってこのサービスを積極的に選び続ける理由になるのかを問います。数ある価値ある事前期待の中でも、積極的に我々のサービスを選び続ける理由になるような事前期待は多くはありません。前回のコラムでも触れた通り、価値ある事前期待の中でも、リピートオーダーや顧客紹介に結びつくような、大満足や感情的大満足が得られるような事前期待を見出すことが重要です。
(詳しくはこちら:第102回 成果に繋がる事前期待の見つけ方)
Why競合:なぜ競合に勝てると言えるのか?
続いての問いは、価値ある事前期待であっても、他社でも応えられる事前期待だったら意味がないのではないか、という観点です。つまり、他社よりも優位に応えられる事前期待や、他社では応えることができない事前期待を的にすることで、他社との違いが際立ち、顧客が他社ではなく我々のサービスを選ぶ理由になるかどうかを見極めます。この事前期待を的にすることができれば、圧倒的な競争優位を築くことができます。
Why我が社:なぜ我が社がこの事前期待に応えるべきなのか?
これまでの2つの問いを通して、顧客が他社ではなく、我々のサービスを積極的に選び続ける理由に繋がる事前期待の候補が見出せたとします。しかしそれが、我が社の事業方針や事業戦略と合致していなければ意味がありません。たとえば、サービスの価値を高めることで価格競争から抜け出して、値段が高くても選ばれるサービス事業になりたいと志向している事業があります。それなのに、顧客がリピートする理由になり、他社との差になるからと、「費用を安く抑えたい」という事前期待を的にしてしまう、といった具合です。これでは、意味がありません。的に見定めた事前期待に応えることで、我が社の事業の在りたい姿が実現するのかどうかにも、こだわる必要があるのです。
Why私:なぜ私はこの事前期待に応えたいのか?
そして最後に、この検討をしているメンバーの一人ひとりが、的に見定めた事前期待に応えたい理由を持っているかを問います。サービスはお客様と一緒に創るもの(共創)だという特徴があります。つまり、顧客との価値共創の主役である一人ひとりが、その事前期待に応えることに、価値や可能性、やりがいや誇りを感じなければ、サービスの姿は変わっていきません。そのためにも、まずは事前期待の的の検討を進める中心メンバーが持つ、一個人として情熱や思いを、事前期待の的に込めることが欠かせないのです。
事前期待の的を見定める際に、価値ある事前期待がたくさん挙がってしまい、どう絞り込んだら良いかと悩んでしまうケースは少なくありません。その際には、是非この4つのWhyの問いの答えを見出せるような事前期待にフォーカスしていただくと、的が見定められるようになると思います。同時に、事前期待の的に、事業成長のストーリーを込められるようになります。事前期待の的に込められたストーリーが、事業のサクセスストーリーの道しるべになるはずです。
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス 1、2
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<筆者プロフィール>
松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
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サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |