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【連載】CS向上を科学する

2022年2月3日

【CS向上を科学する:第102回】成果に繋がる事前期待の見つけ方~サービスの価値向上と事業成果のクロスポイント~

 


 

松井サービスコンサルティング  
代表/
サービス改革コンサルタント  
松井 拓己  

 

 

サービスの本質であり、サービス設計の原点である「事前期待の的」。これを見定めるため、事前期待について社内で議論してみたけれど、たくさん挙がった中からどの事前期待を的にすべきか分からない。どの事前期待を的にしても、どうもしっくりこない。そうモヤモヤするケースは少なくありません。そこで、今回も前回に引き続き、事前期待の的を見定めるためのガイドとなる内容を取り上げます。

「サービスの価値を向上したら、本当に事業成果が得られるのか?」その問いの答えをサービス設計として定義することが重要です。これまで当コラムで取り上げた考え方を振り返りながら、サービスの価値を高め、さらには受注やリピートオーダー、顧客紹介にも繋がるような事前期待を的に見定めるための考え方を整理します。


成果への“分岐点”を突破する事前期待の条件

多くの企業が取り組んでいるサービス向上を、大きく2つの方向性に分けると、クレームや不満といった「失点をなくす」という方向と、サービスの価値向上の「得点を増やす」方向に分けられます。失点しないだけのサービスでは、顧客から積極的に選ばれ続けることはできないため、サービスの価値向上に組織的に熱心に取り組む企業が増えています。しかし、「得点」なら何でもかんでも成果に繋がるわけではありません。「ありがとう」と言ってくれた顧客が全員リピーターになってくれるわけではないですよね。つまり、得点の中に、受注やリピート、顧客紹介といった成果に繋がるものと、そうでないものを分ける分岐点があります。

成果に直結する得点評価とは何か?それが、当コラムで紹介した「感情的大満足」です。
(詳しくはこちら:第4回 リピートに繋がるCS向上とは)

満足度評価のうち「やや満足」の顧客の97%がリピートや紹介には繋がらないという調査結果があります。つまり、成果に繋がる“得点”とは、「大満足」あるのみなのです。

さらに「大満足」と答えた理由を分析したところ、「論理的な理由の大満足」と、「感情的な理由の大満足」の2つに分類できることがわかりました。このうち、論理的な大満足の顧客は、「やや満足」の顧客以上にリピートや紹介に繋がらないと分かったのです。つまり、本当の意味で成果に繋がるのは、感情的な大満足の顧客だということです。

これで、事前期待の的を考える際のヒントを掴むことができました。たくさんある事前期待の中で、「感情的な大満足」に繋がる事前期待を的にすることができれば、サービスの価値向上と事業成果(受注やリピート、顧客紹介など)を両立することができるというわけです。

ちなみに、前回(第101回)に取り上げた日本サービス大賞の受賞事例の事前期待の的は、フォレストコーポレーションは「家づくりのプロセスを家族づくりの機会にしたい」という事前期待、オイシックスは「料理の手抜きに対する罪悪感を感じたくない」という事前期待でした。これもどちらも「感情的な大満足」に繋がる事前期待だと分かります。


サービスの実感価値はプロセスの評価で決まる

顧客はサービスの何を評価して価値を実感しているのか?これを理解することも、事前期待の的を見定めるために有効です。「サービスの評価」を分解してみると、「サービスの成果」に対する評価と「サービスのプロセス」に対する評価の2つに分けられます。

  ここで言う「サービスの成果」は、たとえばQCD(品質・コスト・納期)や、「早い、安い、うまい」、メニューや機能のようなものを指します。一方で「サービスのプロセス」は、スタッフの印象や対応力など、サービス利用の過程でどのような経験や体験ができるのかが評価対象となります。
(詳しくはこちら:第5回 サービスの評価を分解する)

サービスの「プロセスの評価」とはつまり、体験価値や経験価値と呼ばれる領域であり、「モノからコトへ」でいうところの「コトの評価」です。このことから分かるように、昨今ではサービスの実感価値は、「成果」よりも「プロセスの評価」が重要視されるようになっています。

しかし多くの企業ではこれまで、「サービスの成果」を高める努力は組織的に取り組んできている一方で、「サービスのプロセス」の評価を高める努力は現場任せ、個人任せになっています。まさにサービスの「プロセスの評価」を組織的に高められるかどうかが、サービス事業の成長力を大きく左右するのです。

このことから、もう1つ、事前期待の的を考えるヒントが分かります。事前期待を挙げてみると、サービスの成果に対する事前期待が多くなる傾向があります。そこで、サービスのプロセスに対する事前期待にも注目してみると、体験価値や経験価値を高めるような事前期待が見つかることが多いものです。サービスの成果(機能やメニュー)では他社と差が付かない業界は多くあります。サービスのプロセスに対する事前期待を的にしてサービスの価値を高められれば、他社に圧倒的な差をつけ、事業成果を得られるようになるのではと思います。

今回は、数ある事前期待の中から、サービスの価値向上と事業成果のクロスポイントになるような事前期待を見定めるヒントを取り上げてみました。サービスのプロセスに対する事前期待、かつ、感情的な大満足につながる事前期待。読者の皆さんの事業において、どんなものがありそうか、是非議論してみてください。

 

※参考書籍はこちら

価値共創のサービスイノベーション実践論

日本の優れたサービス 1、2





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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:価値共創のサービスイノベーション実践論(生産性出版)、日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版) ほか
 
▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/