2021年4月12日
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様々な業界でサービス改革をご一緒させていただく中で、顧客ロイヤルティ向上やカスタマーエンゲージメント強化は、重要なテーマとして多くの企業で掲げられています。しかしその多くが、「ロイヤルカスタマーとは、たくさん買ってくれるお客様のことです」「プラチナ会員は、年間いくら以上払ってくれる顧客が対象です」といった具合に、実に提供者都合な観点でしかこのテーマに取り組めていません。利用額は高くはないけれど、普段からすごく応援してくれ、周囲への推奨を熱心にしてくれているような顧客に対して、企業側から「あなたはブロンズ会員(最下層)です」とアナウンスが届き、大クレームに。こういった企業のスタンスに失望し、静かに去っていく顧客も多いことでしょう。
この課題に突破口を拓いてくれるのが、今回注目する第3回日本サービス大賞の総務大臣賞を受賞した株式会社SKIYAKIの「Bitfan」というサービスです。
株式会社SKIYAKI
熱量データでファンクラブを活性化。創作者のプラットフォーム「Bitfan」
(受賞事例の詳細はこちら)
もともとは、アーティストなどのファンクラブのオーナーとファンとを結ぶオムニチャネルプラットフォームとして生まれた「Bitfan」。登録オーナーは累計約700件、ファン総数378.4万人と、順調に拡大中。ファン向けのサービスをテクノロジーの活用によって実現し、新しいマーケットを創造する取り組みを、Fan×Technology = “FanTech” と定義して、事業を展開しています。今では、アーティストやクリエイターだけでなく、ファンとの関係性を強化したいスポーツ業界や飲食業などの企業へもサービスを拡大しています。
このサービスが革新的なのは、利用者の熱力を可視化している点です。対象コンテンツの閲覧や音楽の再生、SNSでの投稿、ライブ参加、グッズ購入など様々な行動履歴データを統合して“ポイント”という形で表しているのです。これまで「利用金額」という形でしか顧客ロイヤルティやエンゲージメントを捉えることができなかった企業にとって、この「熱量」の可視化は極めて大きな意味を持ちます。
顧客不在の顧客ロイヤルティ向上から脱却する
たとえばファンサイトや会員制サービスには、様々な事前期待の顧客が登録しています。「時間もお金も惜しまずに利用したい」という顧客もいれば、「あまりお金はかけられないけれど、時間や行動は惜しまずに利用したい」という顧客もいるでしょう。「お金も時間も限られているけれど、大ファンなので細々とでも利用し続けたい」という顧客だっているはずです。
利用金額だけで“大切な顧客”を可視化しても、上記のどの事前期待の顧客も大切にできないでしょう。もちろんサービス事業はボランティア活動ではないので、今お金をたくさん使ってくれる顧客は大切にすべきです。しかしそれだけで、事業の継続的な成長は実現しません。重要なのは、積極的にこのサービスを選び続けてくれるロイヤルカスタマーを育てることです。利用金額という結果論ではなく、その手前のプロセスに寄り添えるかどうかが、顧客ロイヤルティ向上のカギなのです。
その第一歩は、顧客の事前期待を捉えることです。事前期待によって、サービスの形や価値はガラリと変わります。より本質的で価値のある事前期待を捉えて応えなければ、サービスの価値は高まらず、当然ながら顧客ロイヤルティも向上しません。利用金額を可視化するだけでは、顧客の真の事前期待を捉えることはできないのです。
(事前期待とサービスの関係については、当コラム「第7回 サービスの本質に迫る、サービスの定義」をご覧ください。)
Bitfanは、行動や気持ちを投資してくれているロイヤルカスタマーまでも可視化してくれます。これにより、どんな事前期待の顧客なのかが分かれば、オムニチャネルプラットフォームの上で、より価値の高いサービスやコミュニケーションを組み立てることが可能になります。顧客ロイヤルティ向上やカスタマーエンゲージメント強化は、これまでとは比べ物にならないくらい効果的かつ具体的な取り組みになるでしょう。Bitfanはまさに、顧客から積極的に選ばれ続けるサービス事業へのステージアップを強力にサポートするプラットフォームになるのではないかと思います。
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |