2021年3月5日
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第3回日本サービス大賞では、これまで以上にモノづくりに関連するサービスの受賞が存在感を示しています。加えて、時代の流れを捉えたDX(デジタルトランスフォーメーション)サービスも目を引きます。そこで今回は、DXでモノづくりの在り方を大きく変えるプラットフォームサービスであるミスミのmeviyに注目してみたいと思います。
株式会社ミスミグループ本社
製造業における部品調達のAI・デジタル革命「meviy」(メヴィー)
(受賞事例の詳細はこちら)
1977年、ミスミは業界で初めて機械部品を規格化して、カタログ販売を始めました。これまでは図面を書いてサプライヤーに発注するため、部品の調達に1ヶ月ほどかかっていました。カタログ品なら、設計図面も見積もりも不要で、短納期で手に入るとあって、一気に普及しました。今では掲載商品は2,940万点と業界最大のラインナップで、顧客は世界30万社。“モノづくり業界のインフラ”と称されています。
しかし、形状が複雑な部品まではカタログ品で対応できず、これまで同様に非効率な調達を余儀なくされていました。カタログには限界があったのです。
「カタログの限界」に挑むミスミのリ・イノベーション
「カタログの限界」を越えるサービスイノベーションで、モノづくり全体のスピード革命を実現したのが、今回JETRO理事長賞を受賞したmeviyです。形が複雑な機械部品の設計データをmeviyにアップロードすると、AIが自動で加工の可否および納期と費用の見積もりを提示してくれます。注文ボタンを押せば、デジタルマニュファクチュアリングシステムにより、設計データから加工プログラムを自動生成して、注文と同時に加工がスタート。なんと、最短で即日出荷を可能にしました。これにより、従来の機械部品調達に必要な時間の実に92%を削減できるそうです。
meviyは今、大手製造業をはじめ45,000ユーザを突破。リピート率は8割以上で、売上高は2年半の間に15倍に急成長。デジタルモノづくりサービスにおける国内シェアは60%を誇ります。モノづくり分野において、日本発のグローバルプラットフォームとなれるのではと、期待が集まっています。
強みをフルに活かしたサービスモデル
自動見積もりを可能にしたAIには、2,940万点もの部品を値付けしてきたカタログサービスのノウハウが実装されました。当日出荷を可能にしたデジタルマニュファクチャリングには、メーカー機能を有するミスミのモノづくりの強みが活きています。加えて、部品の加工は多くの協力会社と進めることで、事業のスケールを加速しています。商社のパートナーマネジメント力が発揮されているのです。
このように強みをフル活用したサービスモデルで急速に進化するmeviyですが、目指す姿は何でしょうか。見定めている“事前期待の的“は、「多機能化」ではなく「プロフェッショナルエンジニアの使い勝手」です。
サービスモデルのスタイルを変革する
ここで重要なのが、サービスモデルのスタイル変革です。これまでミスミが得意としてきたカタログサービスは、提供者が用意したモノを顧客に選んでもらう「提供型」のサービスモデルです。一方、プロの使い勝手に応えるmeviyは、顧客が描いた設計図面をもとに、顧客とmeviyがやり取りをしながら、設計の最適化と部品の短納期化を進める「共創型」のスタイルであることがキーポイントだといえます。
このサービスモデルこそ、meviyの競争力になっています。近年、デジタルモノづくりの領域には、テック系企業の参入が増えています。これに対してミスミは、テック系企業にはない“モノが作れる強み”を最大限に活かし、圧倒的な短納期だけでなく、プロフェッショナルエンジニアの高い事前期待に応えられる品質と使い勝手を実現しています。その結果、業界内でオンリーワンかつナンバーワンのポジションを確立しているというわけです。
このようにmeviyは、製造ができる商社であるミスミの強みや経験知をフルに活かしたサービスモデルであり、モノづくりそのものをサービス化したサービスイノベーションなのだと思います。
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |