2021年1月13日
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第3回日本サービス大賞を受賞したサービス事例をひも解くオンライン配信が始まりました。今回は、内閣総理大臣賞を受賞した小松製作所のスマートコンストラクションと同じく、サービスモデルでモノづくりの限界を乗り越えたアシックスの足形計測サービスを取り上げます。
株式会社アシックス
3次元足形計測を起点とした価値協創サービス
(受賞事例の詳細はこちら)
コマツのスマートコンストラクションは、自社製品(ICT建機KOMTRAX)による建設工事の生産性向上という枠を越えて、他社建機や人手の作業まで含めた工事工程全体の生産性向上を実現しました。自社製品だけではできなかった生産性向上の限界を、サービスモデルで乗り越えているといえます。
対してアシックスは、どのようにモノづくりの限界を越えたのでしょうか。
モノづくりの限界をサービスモデルで乗り越える
言われてみれば当然なのですが、人の足の形や走り方の癖は、左右で異なります。一方で、シューズメーカーとして製造するシューズの形は左右で同じ形です。つまり、シューズを製造して販売するだけでは、顧客ごとに異なる足形に対して、真にフィットするシューズを提供することはできないのです。これが、アシックスのサービスモデルが乗り越えている製造業の限界の1つです。3D足形計測を基に、個々の顧客の足に合わせて、シューズ、セミオーダーの中敷き、部位により厚みの異なるソックスをマッチングするのです。
店舗の価値を革新するサービスモデル
一方で顧客自身も、自分の足形を正しく理解している人は決して多くありません。これまでの経験から、なんとなく「足幅が広いかも」とか、「偏平足気味かな」「土ふまずが小さいような気がする」と思っている程度でしょう。だからこそ、3D足形計測で自分自身の足形を正しく理解することが、店頭でスタッフと一緒になってシューズを選ぶ経験価値の共創につながっています。単に商品を陳列し、キャンペーンや安売りで差別化している小売店とは全く異なるアプローチです。
実際に店舗に伺うと、足形計測やランニングフォーム計測は、店舗の一等地に、かなりのスペースを設けて行われています。まさにアシックスの直営店の“顔”となっているのです。普通の小売店の感覚でいえば、「このスペースにシューズを並べた方が、商品が売れるのでは?」と思いたくなるほどです。アシックスにとって直営店の役割は、もはや“商品を売る場所“ではなく、むしろ”ランニングの経験価値を高める場“といえます。
その証拠に、アシックスの店舗には、コインロッカーやシャワールームが併設されているところがあります。アシックスの店舗から直接ランニングに繰り出せるように設計されているのです。つまり小売店を、”モノを買う場”から、“経験価値を高める場”に革新しています。製造した商品を陳列して販売するという「小売店の限界」も、3次元足形計測を基点にしたサービスモデルで乗り越えているといえます。
事業の可能性を引き出すサービスモデルを設計する
アシックスは、このサービスモデルによって、それぞれの顧客の足に真にフィットし、ランニングの経験価値を高める事業へとステージアップしたといえます。その結果、パフォーマンスランニングシューズの領域で、安売りをしない直営店がグローバルの各地に根付くことで、アシックスのシューズが顧客から積極的に選ばれるようになっているのです。
さて、読者の皆さんの事業においてはどうでしょうか。製品の仕様だけでは応えられない事前期待に着目し、その事前期待にサービスモデルによって応えることはできないだろうか?WEBサービスが台頭する中で、店舗の存在意義や店舗での経験価値を格段に高めるためのサービスモデルの改革はできないだろうか?
※参考書籍はこちら
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |