2020年10月12日
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いよいよ第3回日本サービス大賞の表彰シーズンになりました。今回は、コロナ禍で経済社会全体が大きな変化をしている中で、どのようなサービスが受賞するのか、どのようなメッセージが示されるのか、大変楽しみです。
このようなタイミングで、日本サービス大賞委員会の委員長である村上輝康氏(産業戦略研究所 代表)との対談フォーラムに登壇させていただく機会を頂きました。サービス産業生産性協議会が主催し、サービス学会が後援するSPRINGフォーラムです。「コロナ時代のサービソロジー活用について~サービス・イノベーションこそ不確実性時代の経営を活性化させる~」をテーマに、村上氏は“サービソロジー(サービス学)”の観点から、私は様々な業界のサービス改革の実際の取り組みの観点から、議論させて頂きました。今回は、対談させて頂いて印象的だった点についてご紹介したいと思います。
コロナ禍のサービス・イノベーション
―――「顧客接点」、「企業活動一般」、「社会経済システム」の3つのチャネルで経済的なインパクトが波及しているコロナ禍において、企業が自助努力で対応できるのは「顧客接点」のみ。よって、企業は顧客接点でのイノベーションに取り組まなければならない。―――
これは、今まさに進んでいるコロナ禍においてサービス改革の4つの取り組みと合致しており、強く共感しました。(当コラム第86回「顧客接点のサービス改革テーマ~コロナを乗り越えてサービスモデルを進化させる~」をご覧ください)
加えて、改革に取り組む企業の問題意識の共通点は、「コロナ禍が原因ではなく、前から薄々分かっていた。」という捉え方です。それは、人口減少社会における市場の縮小(顧客の減少)と人手不足(働き手の減少)の深刻化です。これが、10年~20年後の話だと思っていたら、コロナ禍で急激に前倒しされたという認識です。そして、コロナ禍を生き抜けるようにサービスモデルを進化させることで、10年先の人口減少社会においても、力強く生き抜けるのではというビジョンを持っています。
この危機を単にしのぐのではなく、前向きな変革のチャンスと捉えて取り組めるかどうかが問われているのだと思います。
ビジネスモデルではなく、サービスモデルを磨く
―――ビジネスモデルは、企業を主語にして「いかに儲けるか」を設計したもの。対してサービスモデルは、顧客を主体にして「いかに価値を共創するか」を設計したもの。サービス価値共創フレームワーク(通称:ニコニコ図と呼ばれているようです)には、18の構成概念と、10の構造概念がある。そして3つの共創サイクル(顧客の新たな事前期待の形成サイクル、提供者の知識やスキルの形成サイクル、市場での交換価値の拡大再生産)がある。―――
近年、ビジネスモデルのトップランナー企業でのサービス改革の問題意識と合致していると感じました。優れたビジネスモデルを生み出したが、他社がすぐにマネをするので、差が付かなくなっている企業がたくさんあります。そこで、サービスモデルで圧倒的に差別化しようとしているのです。その際に目指すのが、顧客・従業員・事業のだれも犠牲にしないサービス事業へのステージアップです。具体的には、顧客が価値を感じて関係性を高められること、従業員がイキイキ成長すること、事業成果にちゃんと結び付くこと。(当コラム第54回「顧客、従業員、事業を犠牲にしないサービス向上~自己犠牲のサービスから抜け出す~」をご覧ください)
まさに、サービス価値共創モデルの実現が、サービス事業のステージアップに繋がるのだと感じました。
コロナ禍で進化するサービスの数々の事例
対談の中では、村上氏から紹介いただいたサービス学会の特集コラム「COVID-19」に掲載されている様々な事例を題材に議論を深めました。新たなサービスの芽が様々な業界で見つかっていることに大変ワクワクしました。
加えて、サービスの本質を捉えた事業と、そうでない事業との差が拡大しているとも感じました。顧客の事前期待を捉え、関係性を高めてきたサービスは、コロナ禍で応援が集まり、新規の顧客が増えています。一方、自分たち都合の戦略を進めてきたサービスは、多くの顧客と従業員、取引先から背を向けられてしまっています。コロナ禍においても積極的に選ばれるサービスなのか、“不要不急”なサービスと言われてしまうのか、サービス経営の真価が問われているようにも思います。
加えて、日本サービス大賞を受賞したサービスがコロナ禍で活躍していることを取り上げたコラムもありました。当コラムでも、受賞企業のコロナ禍での進化を取り上げています。優れたサービスモデルを活かして、コロナ禍で打撃を受けた産業や地域の救済を行たり、新たな時代のスタンダードを作る取り組みをしているのです。ここから感じたのは、優れたサービスモデルを持つ事業を日本中に生み出すことは、経済危機を乗り越えるための社会システムにもなり得るのではないかということです。
優れたサービスモデルを発信する場としても、今年発表される第3回日本サービス大賞に注目したいと思います。
サービスの科学はどこから生まれるのか
まとめとして私からは、サービスの科学を経営に活かすとはどういうことなのかについて、お話させていただきました。もちろん、海外やサービス学会などで研究されている理論を学び、活かすことも大切です。それ以上に重要なのが、我々自身がサービス事業を営む中で蓄積してきた経験知の中から、自社流のサービス経営のロジックを生み出すことが重要と感じています。当コラムで紹介してきたサービスの本質論や、サービス学会が提唱するサービソロジーなど、外部からの知見が、その整理のために少しでもお役に立てれば幸いです。
村上氏からは最後に、サービソロジーは身近なものであり、サービス学会でサービソロジーが進化しているので、産業界からも参加していただきとのお誘いをいただきました。勘と経験に頼ったサービス経営から卒業し、サービス経営にロジックを活かす時代がやってきています。
※参考書籍はこちら
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |