2019年8月20日
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知る人ぞ知る優良サービス企業が、設備工事を中心に展開する島根電工です。時代の流れで大口の公共工事が激減する中、一般家庭での小口工事に主軸をシフトしたことで、経営の危機を乗り越えて事業を成長させました。島根のローカル企業が、一見すると非効率な小口工事に事業の軸足をシフトして成長を遂げた秘訣は何なのでしょうか。今回はその一部をご紹介します。
「住まいのおたすけ隊」と業界初のフランチャイズ展開(地方創生大臣賞)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――【サービス内容】
住まいの困りごとを抱えるエンドユーザー向けに、照明器具の交換やコンセントの増設などを含む住宅設備の小口工事を迅速・安心に実施するサービスを「住まいのおたすけ隊」として提供。このノウハウをパッケージ化して、全国の同業他社にフランチャイズ展開している。
【受賞ポイント】
・「建設業からサービス業へ」の意識改革により、従業員が親身で心のこもったサービス提供者に変化
・自社開発の端末や情報システムを活用して顧客の利便性向上と業務効率化を同時に実現し、大口工事・受注型から小口工事・提案型へとサービスモデルを転換させた
・自社のしくみやノウハウを31都道府県46社にフランチャイズ展開し、同業他社にも貢献
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生命力を削ぐ仕事に手を出さない
バブル崩壊によって、国が公共工事を減らす方針を打ち出す中、倒産する工事会社が多くありました。また当時は、固定電話が携帯電話に代わり、LANはWi-Fiに変わることで、電気工事も大幅に減少してしまいます。
代表取締役社長の荒木恭司氏は当時、常務として事業のトップを務めていたそうですが、大口工事に頼った事業から抜け出さなければならないと危機感を高めたといいます。そこで荒木氏は、大口工事ではなく小口工事や地域のお年寄りのお困りに応える事業にチャレンジすべきと社員たちに語り始めます。
しかし、山陰地方でナンバーワン企業であった同社は、「うちからは大口工事はなくならないでしょ」と危機感が持ちにくく、社内からの対立にあってしまいます。
小口工事は手間がかかるのに儲からない
一般家庭向けの小口工事は、次のようなプロセスで進んでいきます。まず顧客からの要請を受けて訪問し、現場調査。帰社して見積書を作成して再訪問。ここで変更があれば、見積を修正して再々訪問。その後、正式受注ができたら、工事日程を調整。工事日に施工して、数日後に請求書発行。さらに数日後に集金のために訪問。
こんな具合で、ちょっとした工事でも多くの日数がかかり、極めて非効率。顧客にも従業員にも負担がかかり、事業としても生産性が低いのです。これでは顧客も、工事を依頼したい気持ちになれないのは当然です。これが、「小口工事は手間がかかる割に儲からない」と敬遠される原因です。闇雲に小口工事の要望に対応するだけでは、この事業は成立しません。
おもしろいと思ったらやってみる性格だという荒木氏は、この事業に小さくトライしてみたといいます。すると、サービスの組み立てのテコ入れの必要性を痛感すると同時に、その丁寧な仕事ぶりに顧客からお褒めをいただくこともあり、手ごたえを感じたそうです。
チャンスロスを乗り越えるサービス設計で商機をつかむ
非効率で顧客が依頼したい気持ちを削ぐようなチャンスロス連発の小口工事サービスプロセス。これを島根電工は、一回の訪問で、全てが完了するように組み直しました。そしてその実現性を高めるために、その場で見積書から請求書まで作成できる携帯情報処理端末「サットくん」を自社開発。これを携行する施工員が即座に見積書作成から工事を施工し、さらにその場で請求書を発行して集金。顧客も一度で全てが済み、早く施工してもらえると喜んでもらえる上、他の相談も気軽に受けられるようになりました。加えて、顧客のサービス利用履歴を一元管理する「お客様サービスシステム」も自社開発して、繰り返し利用いただける工夫もしています。
このように、非効率でチャンスロスを頻発していたサービス設計を組み直すことで、工事単発ではなく、長きにわたり地域や生活に寄り添う関係性を築くことができました。顧客の利便性向上と業務効率化を同時に実現したことで、一見すると非効率な小口工事へと、事業の主軸の転換に成功したのです。
島根電工の小口工事サービス事業は、現状の非効率やチャンスロスに対する違和感を起点に、優れたサービスプロセスに設計を組み直したことがカギだと言えます。同時に、それを支える「ITのしくみ」と、今回は割愛しましたが「サービススタッフの育成」が相まって、地域とともに成長するサービス事業に生まれ変わったのです。
サービスモデルをフランチャイズ展開する
現在、島根電工では、日本各地で苦しむ同業者にも、このサービスモデルを展開することで、業界全体で良くなっていければという思い「すまいのお助け隊」のフランチャイズ展開を進めています。自社のサービス設計やしくみ、ノウハウを同業他社に提供しており、これまでに31都道府県46社が加盟(受賞当時)。サービスがモデル化されていることで、容易に他地域の同業他社への展開ができるようにもなるのです。
※参考書籍はこちら
【新刊】日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~
7月初旬発売!
【既刊】日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |