2018年12月4日
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右肩下がりのクリーニング業界で次々に新サービスを打ち出して成長を続けるサービスイノベーター、喜久屋。スピード仕上げ競争が激化する業界において、「顧客に納期を決めてもらう」という逆転の発想で、サービス事業を改革しました。その発想は、どこから得ることができたのでしょうか。
第1回日本サービス大賞 優秀賞
宅配クリーニング「リアクア」
(株式会社喜久屋)
出典:第1回日本サービス大賞
そのサービス、なぜ気付けたのですか?
実は喜久屋でも、顧客に納期を決めてもらう取り組みの1年前に、「スピード仕上げ」を実施したそうです。早く受け取りに来てくれた方には割引クーポンまで付けて。どんなに喜んでくれるだろうかと、店頭の様子をうかがっていたところ、お客様がお店に入ってきました。「すみませ~ん。」といいながら。受け取りに来るのが遅くなっちゃってごめんなさいと、お客様が言うのです。
この一言に、大きな違和感を覚えた中畠社長は、自分たちの思いがズレていたことに気が付いたそうです。お客様に喜んでもらおうと思って始めたスピード仕上げで、お客様に謝られてしまった。スピード仕上げは、こちらの都合であって、お客様の都合に合っていないと。
この一言がきっかけで、スピード仕上げから180度方向転換して生まれたのが、喜久屋のサービスというわけです。
これまでに取り上げたように、サービスはお客様と一緒につくるものだという極めて大切な特徴があります。本来、サービスの開発やブラッシュアップは、お客様と一緒でなければ進められないはずです。しかし、多くのサービス開発は、企業側で勝手に考えたものを顧客に押し付けていることが多く、顧客の反応に気付きを得てサービスを磨き上げる努力は手薄になっています。サービスをお客様と一緒につくるプロセスは、これからが本番だというのに。これでは、サービス開発がうまくいかないのは当然だと言えます。サービス開発が一発勝負で、ちょっと顧客に響きそうだからと、次から次に新しいサービス開発に飛びついてしまってはいないでしょうか。喜久屋の中畠社長のように、顧客からの反応に学びを得て、新サービスの軌道修正やブラッシュアップができるかどうかが、サービス開発を成功に導くカギだと言えます。サービス開発は顧客の反応に着想を得ながら進めるべきなのです。
社長!それ、うちの理念に反してますよ!
もうひとつ、面白い話を聞きました。喜久屋では、色んなチャレンジをする中で、現場からこんなことを言われるそうです。
「社長!それ、うちの理念に反してますよ!」
これは大変素晴らしいことだと思います。日々顧客に触れる現場は、顧客の声の代弁者です。その現場は、違和感や思うところがあっても、社長に遠慮して意見を飲み込んでしまうことも少なくありません。しかし喜久屋では、遠慮なくそれを伝えることができているのです。つまり、経営と現場が一緒になって、喜久屋のサービス事業を創り上げているのです。
サービスはお客様と一緒につくるもの。だからこそ、顧客接点の現場と経営とが一緒になってサービスをつくる必要があるのです。経営から押し付けるトップダウンでも、現場へ丸投げのボトムアップでもなく、一緒につくる共創サービス事業です。
顧客と現場と経営がいっしょになってサービスをつくり出せるような関係が構築できていることが、サービス開発の着想力であり、喜久屋の強さ、中畠社長の魅力なのだと実感しました。
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |