2018年9月18日
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この数年で、ブランディングの在り方を見直すサービス改革が増えてきました。とても素敵なブランドメッセージを掲げている企業でも、それが体現できておらず、もったいない!と思うことが多々あります。
「モノからコトへ」と言われて久しいですが、意識はまだまだモノ売り思考から抜け出せずにいます。その症状のひとつが、ブランディングにも表れています。ブランドメッセージと称して格好の良い言葉が掲げられるものの、顧客接点でそれが体現できておらず、顧客がガッカリして去ってしまっている。社内でも、ブランドメッセージを聞いても何をしたら良いかピンとこなくて、絵に描いた餅になっている。「良いモノは喜ばれるに決まっている。」「良いブランドメッセージは顧客の心にも、従業員の心にも、刺さるに決まっている」と思い込んで、勝手につくるブランディングが空振りを始めているのです。
モノがあふれている現代においては、「何を手に入れるか」よりも、「どんな経験ができるか」「何を感じることができるか」が価値の中心を担うようになっています。それにともない、ブランディングは、世界観を投影したモノを作ることから、そのブランドらしさを実感できる経験を提供することが、成功のカギを握るようになっています。そこで、ブランドメッセージだけが宙に浮いてしまっている場合には、それを顧客に価値ある経験として提供できるような「サービス設計」につなげる必要があります。ブランドメッセージと現場を、サービス設計で橋渡しするのです。
ブランドとサービスのかけ橋
自社の強みや価値を、「ブランド力」や「我々らしさ」のような言葉で表現している企業がたくさんあります。しかし、この言葉にはあまり意味がありません。この言葉を見ても、顧客も従業員も、それっていったい何なのか、まったくピンとこないのです。もしかすると、経営マネジメント自身も、よく分かっていないかもしれません。当然ですが、「ブランド」や「らしさ」を掲げるだけでなく、体現しなければなりません。
では、ブランディングをサービス設計につなぐとは、どういうことか。つい取り組みがちなのは、ブランディングをサービスとして実現するための業務プロセスやカスタマージャーニーマップに落とし込もうというものです。それも良いですが、その前に明らかにすべきことがあります。
自分たちの掲げているブランドメッセージを見ながら、考えてみてください。
「これは、顧客のどんな事前期待に応えることができると言っているのか?」
あるいは、
「“我々らしさ”とは、顧客のどんな事前期待に応えることができることなのか?」
この問いに答えられないことが少なくありません。
この答えがすぐに出てこないのであれば、自分たち都合で勝手につくったブランディングを顧客や従業員に押し付けようとしてしまっていたかもしれません。事業に関わるメンバーによって、答えが違うようでは、闇雲なブランディングになっていたかもしれません。挙げた事前期待が、他社でも応えられるようなことでは、顧客が価値を実感できておらず、顧客離れのリスクが高まっているかもしれません。
ブランドや自分達らしさを象徴する事前期待を明確にしてみてください。これを組織で納得感を持って共通認識にすることができれば、ブランディングを体現するための努力のポイントに経営から現場までがピンときた状態で、その実現に取り組むことができます。ブランディングとサービスの現場のかけ橋は、打ち手として「何をするか」を定義する前に、「どういう事前期待に応えるべきか」という事前期待の的を見定めることにあるのです。自社のブランディングの在り方を見つめ直す際には、ブランドメッセージや自分たちらしさを「事前期待」で再定義することからスタートしてみて頂ければと思います。
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |