2018年6月25日
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第2回日本サービス大賞の表彰が今月末に迫って参りました。そこで前回に引き続き、第1回日本サービス大賞を受賞サービスの中から、共通点を見出してみたいと思います。
価格競争もスペック競争も苦しい
前回取り上げた、行動展示で有名な旭山動物園と、家づくりを物語にするサービスで成功している住宅会社のフォレストコーポレーションには、もうひとつ共通点があります。両方のサービスをシンプルに説明してみると、その共通点が浮かび上がります。
旭山動物園はどんな動物園なのか。それを説明すると、次のようになります。
――― 旭山動物園には、他のどこの動物園にもいる普通の動物しかいません。しかし、他の動物園では決して味わうことのできない動物との関係性や仕草を味わうことができるのです。―――
動物園の差別化の王道は、動物の種類です。「他の動物園にはいない、珍しい動物がいます。」というのです。最近では動物の種類では、あまり差が付かなくなっています。多額の投資をして、他にはない動物を連れてきて飼育しても、思ったほど来園者数が伸びない可能性が高いのです。そんな中、旭山動物園のアプローチは、サービスの差別化として新たな方向性を示しているといえます。
同様にフォレストコーポレーションのお客様参加型の家づくりを説明すると、次のようになります。
――― フォレストコーポレーションは、国産の天然素材にこだわった最高等級の家をつくります。加えて、自分の家に使う木を、山に入って選んで切るところからお客様が参加することで、一生に一度の家族での家づくりを感動の物語に変えているのです。 ―――
ハード面では、中小企業といえども大手に引けを取らない家づくりを実現しています。ただし、ハード面を磨いてスペックを高めたところで、大手を含む競合他社に大きな差をつけることはできません。ハイスペックな家であることは、もはや当たり前になりつつあるのです。この状況において、選木から始まるお客様参加型の家づくりは、他社との圧倒的な差として顧客に認識され、事業を8年で3倍に伸ばすに至っているというわけです。
両者のサービスの共通点は、サービスの差別化や競争力強化の方向性のシフトです。
方向性をシフトして、スペックや価格競争から抜け出す
以前の記事でも取り上げましたが、顧客からの評価は、2つに分解することができます。サービスの「成果」に対する評価と「プロセス」に対する評価です。多くの企業が熱心に取り組んでいるのは、成果の評価を高めることでの差別化や競争力強化です。たとえば、メニューや機能の開発、コストパフォーマンスの向上が該当します。もちろんこれらの取り組みは重要ですが、問題は差が付きにくくなってきたことです。メニューや機能で差別化しても、すぐに他社にマネされて、あっという間に価格競争に追い込まれてしまいます。成果の評価を高めるアプローチでは、苦しいスペック競争や価格競争からは抜け出せないのです。
一方、旭山動物園やフォレストコーポレーションは、「プロセス」の評価を高めることで、圧倒的な差別化を実現しているといえます。行動展示で、動物園の中で経験できる価値を高めた旭山動物園。家づくりのプロセスに顧客が参加することで感動を生んでいるフォレストコーポレーション。どちらも、差別化のカギになるのは、メニューや機能ではなく、サービスプロセスで経験できる価値を高めることです。
ジリ貧のスペック競争や価格競争から抜け出したいのであれば、サービスのプロセスの評価を高めることが有効です。少し極端な表現ですが、他社と同じメニューや機能しかなくても、サービスのプロセスの評価を抜群に高めることで、圧倒的に差別化できるのです。
サービスの差別化や競争力強化の新たな方向性として、「成果」ではなく「プロセス」を磨くという選択肢があることは、覚えておいて損はないと思います。
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |