2018年3月9日
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以前、「サービスの生産性向上を科学する」と題したコラムを掲載させていただき、多くの反響を頂きました。実際にサービス事業において生産性を高める方法論をもっと知りたいというお声も頂きました。サービスの生産性向上への関心が高まり続ける中で、いざ事業として取り組もうとしたものの、どう進めたら良いか分からなくて困っているという方に、少しでも参考にして頂ければ幸いです。
サービス改革を進めるには、乗り越えなければならない壁があります。それは、建前の壁、情熱の壁、顧客不在の壁、闇雲の壁、実行の壁、継続の壁の6つです。この中でも、サービスの生産性向上の課題になるのが「顧客不在の壁」と「闇雲の壁」です。以前のコラムでは、「顧客不在の壁」を乗り越えて生産性を高めるための考え方を紹介しました。そこで今回は、「闇雲の壁」に着目したいと思います。
サービスの生産性を下げる「闇雲の壁」
スローガンや目標を掲げるだけで、「あとは現場で各自が考えて頑張ろう!」と、闇雲に取り組まれている活動が多いものです。現場では、お客様に喜んでもらおうと一生懸命考えて、忙しい中で様々な努力をしています。しかし、個人や現場任せで闇雲に取り組んでいるために、組織としては多くの無駄や非効率が生まれています。それだけでなく、せっかくの努力が顧客に価値として認識されていなかったり、サービスの価値に見合った成果を得られていないといった “もったいない”もたくさんあります。
また、サービスの実務経験をもとにした知恵や工夫が、個人の中に蓄積されるだけで、組織として活用できていないことが多いものです。これはまさに「宝の持ち腐れ」といえます。現場の経験知を、組織の力に変えることで、サービスの向上や人材の育成を加速することは、サービスの生産性向上には欠かせません。
そこで重要なのが、「サービスの設計」へのテコ入れです。製造業では製品設計に熱心に取り組んでいますが、サービス業には「サービス設計部」という部署すらない会社がほとんどです。曖昧なサービス設計では、闇雲な取り組みから抜け出せないのは当然の結果といえます。そこで、サービスの生産性向上を実現するために、業務の効率化とサービスの価値向上の両立を狙ったサービスの設計として、「勝負プロセスをモデル化」するのです。
勝負プロセスをモデル化する
サービスプロセスをモデル化するステップは、当連載の第10、11回の「サービスプロセスをモデル化する」の通りですが、今回特に重要なのが「勝負プロセス」を決めることです。サービスプロセスをモデル化する議論でよく陥る罠があります。1つは、現状の説明にしかなっていないプロセスモデルを組み立ててしまうことです。現状一生懸命頑張っていることは見える化できますが、「勝負を決める」という観点が抜けてしまうと成果に繋がりません。顧客からのクレームや不満が減っても、契約獲得やリピート、顧客紹介につながらなければ、生産性は向上しません。2つ目の罠は、「全部のプロセスを全力で頑張れ」と言わんばかりに、理想形のサービスプロセスを組み立ててしまうことです。サービス業は忙しさや人手不足との戦いでもあるため、サービスプロセス全体の中でも、忙しくても実行すべき「勝負どころ」はどこなのかを明確にする必要があるのです。
成果につながる「勝負プロセス」と、勝負どころではない「当たり前プロセス」を仕分けたうえで、「当たり前プロセス」は、失点しないことを重視して効率化や省力化します。そして、空いた工数や余力を活かして、「勝負プロセス」で得点を増やす努力に組織でもっと注力して、サービスの質の向上を、事業成長につながる成果に結びつけていくのです。
現場の経験知を組織の力に変えられるように、勝負プロセスをモデル化することで、サービス生産性の「効率化」と「価値向上」を両立します。そして、個人芸や現場任せといった闇雲なサービスから脱却して、生産性の高いサービスを維持するだけでなく、時間とともに更にサービスを磨き上げることで、サービス事業の成長を計画的に推進していけるようになるのではと思います。
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |