2018年1月29日
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「サービスの均一化」をテーマに、サービスのバラツキをどう捉えると効果的な取り組みが進められるのかを整理しています。
前回は、サービスの均一化に熱心に取り組む各社における「サービスのバラツキ」とは、いったい何がバラついていることなのかを整理しました。そのうえで、失点をなくすことを目的とする取り組みであれば、バラツキを無くすことを考えることが効果的であるという点に触れました。ただし、サービス競争が激化している昨今では、失点をなくす取り組みは既に各社で十分に取り組まれてきていることも多く、失点しないだけでは顧客から選ばれ続けるサービスにはなれません。むしろ、これからの取り組みの伸びしろは「得点を増やす」ことを目的にした取り組みの方にあるといえます。そこで今回は、失点撲滅ではなく、得点を増やすための取り組みにおいて、「サービスのバラツキ」をどう捉えることが有効なのかを整理してみたいと思います。
得点を増やすためのバラツキ
得点を増やすための取り組みでは、顧客満足評価や、リピートや推奨の意向を高めるような取り組みが主になります。ここでは、顧客ごとに異なる個別的な事前期待や、状況で変化する事前期待、潜在的な事前期待に柔軟に応えることが有効です。これら顧客ごとに異なるような事前期待には、一律サービスをいくら磨き上げても対応しきれません。つまり、顧客の事前期待に合わせて、個別サービスを磨く必要があるのです。この場合、サービス提供者のアクションのバラツキは、顧客の事前期待の違いに対応したものであれば、むしろ価値あるバラツキといえます。
しかし「サービスのバラツキは無くすべき」という価値観では、こういった価値あるバラツキまで削り落としてしまうことが多々あります。あるいは、失点撲滅型マネジメントを重視するあまり、顧客ごとに異なる期待に応えようとする努力を「余計なこと」のように扱ってしまい、現場がサービスマインドを発揮する気を失わせてしまっていることもあります。いつの間にか、顧客の期待に応えることよりも、上司に叱られないように、決められたことをキッチリこなすことばかり重視する組織になってしまっていることすらあるのです。
得点を増やすための取り組みがうまく機能している企業では、顧客ごとの期待に対応した価値あるバラツキを評価することに重きを置いています。得点型のサービス品質評価や成功事例の共有が積極的に行われ、サービスの社内表彰制度も充実しています。また、顧客ごとの期待を捉えて柔軟に対応するための人材育成や権限移譲も行われています。このように、「得点型のサービスマネジメント」を重視することで、現場も存分にサービスマインドと実力を発揮でき、成果を生んでいるのです。
また、このような顧客の期待に合わせた柔軟な対応の知恵や工夫は、個人の経験知として蓄積されているものの、まだまだ組織的に活用できていないことが多いものです。これはまさに宝の持ち腐れです。そこで、当連載で紹介してきたように得点型サービスモデルとしてサービスを組み直すことで、個人の経験知を組織の力に変えることが可能になるのです。
このように、得点を増やす目的の取り組みであれば、顧客の事前期待に合わせた対応の違いは「良いバラツキ」であると言えます。この「良いバラツキ」に着目して、それを個人芸ではなく、組織的に実践できるようにモデル化することができると、より多くの顧客から、より高い評価を頂けるサービスにステージアップできるのではと思います。
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |