2017年9月29日
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サービスの価値を高めて競争優位を築くことは、もはやサービス業だけの課題ではありません。一次産業では、サービスに乗り出すことで収益を改善していくといった具合に、六次産業化に乗り出す取り組みが盛んになっています。また、製造業においても、「製造業のサービス化」を経営課題に掲げて改革を進める企業が増えています。
以前は、製品の品ぞろえや新しい機能、メニュー開発で差別化をしていこうという企業が多くありました。しかし最近では、機能やメニューではなかなか差をつけられなくなり、あっという間に価格競争に追いやられてしまうのが実情です。そこで、サービスの価値を高めることで、他社に圧倒的な差をつけて、お客様に選ばれ続ける事業に成長していこうというのです。
しかしいざ取り組もうとしてみると、何から手を付けたら良いか分からなかったり、取り組んではいるものの成果が得られなかったりと、苦戦している企業が多いものです。「製造業のサービス化」においては、根深い問題が背景にあることも多々あります。そこで今回は、製造業のサービス化はなぜ苦戦するのかを考えることで、製造業だけでなく様々な業界でサービス改革を進める上でのヒントを見つけてみたいと思います。
製造業が「これからはサービスも頑張ろう」ということではない
製造業のサービス化に苦戦している企業の多くが、「これまではモノづくりに力を入れてきたから、これからはサービスももっと頑張っていこう」という意識で取り組んでいます。もちろんこの考え方が間違っているというわけではありませんが、この言葉の背景にある「サービス」の捉え方を見直す余地はあるかもしれません。製造業においてサービスは、製品を販売した者としての「義務」や、製品を購入するとついてくる「おまけ」という意識が根強く存在していることが多々あります。実はこれはサービス業でも同様で、「サービスにしておきますね」というように、サービスは「無料」や「おまけ」という意味で使われていることがまだまだ多いものです。
これは、社内の花形意識にも繋がります。製造業でよく聞くのは、開発部門の地位が高く、サービス部門は地位が低いという問題です。サービス部門が顧客接点で掴んだ価値ある情報を開発部門に共有しても、あまり活かされないままに開発が進められてしまう、という話はよくあるのではと思います。これは、私自身が製造業で開発業務を担当していた時の反省でもあります。
「製造業のサービス化」を経営課題として取り組んでいるにもかかわらず、このような意識では、サービスの価値を高めることはできません。「製造業だけど、これからはサービスも頑張ろう」という意識ではなく、「我々は、モノが作れるサービス業なんだ」という視点で、製造業のサービス化を捉え直してみると、できることはまだまだあるのではないでしょうか。サービス業が、サービスで価値を発揮するためにモノが作れるというのは、圧倒的な強みになります。
サービスをどう捉えるかが、サービス改革への本気度にも繋がるのです。
しかし、サービス改革に本気になるだけでうまく行くとは限りません。そこで次回は、製造業のサービス化を進める上での「サービスの作り方」に着目することで、いくつかの課題を明らかにしてみたいと思います。
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |