2017年8月23日
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CS向上やサービスに関する取り組みは、立ち上がっては消えてしまい、いつも継続できなくて苦労している企業が多いものです。この「継続の壁」を乗り越えるためには成果実感が重要であることに前回は触れました。そこで今回は、4つの成果実感を積み上げることで、地域に貢献するようなサービス事業として認められるまでの10年間、諦めることなくサービスを継続的に発展させてきた事例を「第1回 日本サービス大賞※」の受賞サービスの中から紹介したいと思います。
※サービス産業生産性協議会(SPRING)が主催する優れたサービスを表彰する制度
第1回 日本サービス大賞 地方創生大臣賞
海女小屋体験「はちまんかまど」(有限会社兵吉屋)
出典:第1回 日本サービス大賞
三重県が国内外からの旅行客誘客の柱にしているのが「海女」ですが、この「海女ブランド」の火つけ役が、今回紹介する兵吉屋が提供する海女小屋体験サービス「はちまんかまど」です。これは、海女小屋を開放して、海女自ら獲ってきた海の幸をいろりを囲んで食べながら、海女の歴史や海女漁の過酷な実態の話を聞き、陽気な海女との交流を通じて海女文化に触れられるというものです。日本サービス大賞の受賞理由は次のように紹介されています。
【受賞理由】
伊勢志摩地方の「海女」ブランド活性化の火つけ役であり、三重県や伊勢志摩の地域経済を支えるサービスである。海女小屋で海女と語り合いながら実際に獲った海産物を食し、海女文化に触れられる非日常の感動体験を、地域や宗教・文化を超えて提供し続けている。伊勢神宮の遷宮後も観光客は増加しており、近隣には海女の関連市場(土産物屋、直売所、カフェ、パワースポット等)が次々と創出され、地域の活性化に寄与している。
苦難の道のりの10年間
兵吉屋の野村一弘代表は、はじめから成功シナリオを描いて海女小屋体験「はちまんかまど」のサービス事業を立ち上げたわけではありません。2004年、「海女さんとふれあいたい」とアメリカから野村氏に連絡が入ります。本来海女小屋は、漁から戻った海女が着替えて冷えた体を温める場所であり、たとえ家族であっても海女以外の人間が入ることは許されなかった神聖な場所。実母が現役の海女を営んでいた野村氏は、悩んだ末に実母に相談し、海女小屋見学を受け入れることに。こうして、日本ではじめて海女小屋を開放して海女文化に触れることができるサービスが誕生したのです。
このサービスは前例がなく、海女が地域の経済や生活と関わりが深いこともあり、今のように「海女小屋体験サービス」が地域に受け入れられ、地域経済の活性化に貢献するようになるまでには、実に10年もの歳月がかかったと言います。この間、諦めることなくこのサービス事業を続けることができたのは、海女が日本一多い町(鳥羽市相差町)で海女文化を絶やすわけにはいかないという、野村氏の信念に加えて、4つの成果実感の積み重ねがあったからなのです。
積み重ねた4つの成果実感
1つ目は、顧客からの評価の実感です。現役の海女との交流を通して、顧客が食している海産物は海女が命がけで獲ってきたものだということを顧客自身が実感し、海女の仕事や海女文化に感激して、敬意の念が生まれるのです。
2つ目は、サービス提供者である海女自身の喜びの実感です。顧客が感激する様子を見て、海女自身もやりがいや誇りを実感することで、顧客と触れ合うことに喜びを感じ、持ち前の明るさと人懐っこさでサービスの魅力を高めています。
3つ目は事業成長の実感です。顧客のリピートやクチコミにより利用者数が徐々に増加し、サービス開始時に比べて、20倍以上になっています。事業である以上、事業成長の実感がなければ、サービスを継続することはできません。最初は小さな変化であっても、事業成長の実感は欠かせないのです。
そしてもうひとつ大切な成果実感が、4つ目の地域や社会への貢献の実感です。海女文化は、地域文化そのものであり、地域の経済とも密接にかかわっています。地域の文化を開放するサービス事業において、地域貢献を実感することは極めて重要な成果だと言えます。実際に三重県の伊勢志摩地域を訪れてみると、地域の至る所に「海女」を掲げたお店があることに驚きます。まさに、この10年間の努力の結晶とも言える光景に、熱いものがこみ上げてきます。
このように、顧客、従業員、事業、地域・社会に関する4つの成果実感を小さなところから積み上げることで、大きな成果を実感できるまでの10年間、事業を継続することができたのです。「継続の壁」を乗り越えるために、これら4つの観点で具体的にどんな成果実感を生み出したいのか、前回の記事で紹介した「スモールサクセス」も含めて、一度明確にしてみてはいかがでしょうか。
※「海女小屋体験『はちまんかまど』」の受賞事例はこちら
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。 |