2017年1月30日
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「第1回 日本サービス大賞※」の受賞サービスの中で今回は、サービス事業モデルとして興味深い事例を取り上げてみたいと思います。
※サービス産業生産性協議会(SPRING)が主催する優れたサービスを表彰する制度
第1回日本サービス大賞 農林水産大臣賞
社会貢献型移動スーパー「とくし丸」(株式会社とくし丸)
出典:第1回 日本サービス大賞
移動スーパー「とくし丸」は、「買い物難民」「買い物弱者」に、軽トラックで生鮮食料品や惣菜・日用品など、約400品目の商品を積み込んで販売するサービスを提供しています。しかも単に対面販売で商品を届けるだけでなく、高齢者の生活全般にかかるさまざまな要望に柔軟に対応することで、日常生活の頼れる存在となっています。また、週2回、契約者宅の軒先や近所まで出向き、顔を合わせるこの「巡回訪問型」の販売方法は、地域高齢者の見守り役としての役割も担っています。この「とくし丸」のサービスは、日本国内で29都道府県140台以上が稼働(2016年5月時点)。徳島県内では人口比で約70%のエリアをカバーし、全国へと事業を拡大。売上も3年間 で10倍近くに成長しています。
興味深い事業モデル
理念に「命を守る(買い物難民の支援、見守り協力)」「食を守る(地域スーパーとしての役割)」「職を創る(社会貢献型の仕事の創出)」を掲げるとくし丸は、その実現のために独特な事業モデルとビジネスルールを組み立てています。
事業モデルとしては、個人事業主である販売パートナー(販売員)と、とくし丸本社が連携し、スーパーからの委託を受けて商品を販売することで、買い弱者である利用者にサービスを届けるというものです。
特に特徴的なのはそのビジネスルールです。地域の商店を守るために、地域の小規模商店の周囲300メートル(徒歩圏内)には顧客開拓に入らないというルールを設置しているのです。加えて、顧客を「協力者」と位置づけて、1商品につき10円を負担する形で事業継続の一端を担ってもらうことにしているのです。
サービスはお客様と一緒につくるものという特徴をうまくとらえ、サービス事業者の自己犠牲や顧客への押し付けではなく、地域の顧客とサービス事業者が相互に支えあうためのビジネスルールを設けることで、持続可能な事業モデルに仕立てているのです。これは、利用者、地域スーパー、販売パートナー、とくし丸本部の「四方良し」の事業モデルといえます。
事業モデルが機能するためのキーワード
事業やサービスのモデルをうまく組み立てたところで、地域や顧客に受け入れられなければ意味がありません。そこで、とくし丸のサービスの重要なキーワードが浮かび上がります。それは、地域や顧客の「身内になる」ということです。ともすれば商品を売り込みに来たと思われかねない移動販売サービスにおいて、地域や顧客に身内扱いしていただくことは、極めて重要な成功要因なのです。サービスはお客様と一緒につくるものなので、価値あるサービスを生み出すためには顧客との共創関係の構築が欠かせません。顧客の身内になり、顧客と一緒になってサービスを仕立てられるかどうかは、地域や顧客に密着するサービスほど重要です。
しかし身内になるのは簡単なことではありません。そこでとくし丸の販売員は、商品販売にとどまらず、電球交換やはがき投函などちょっとした用事に対応するようにしています。足の悪いご老人のお宅には、玄関の中まで商品をお届けしたり、地域の方との世間話に花を咲かせたり。また、メガネの販売や修理が必要とあれば、メガネ商社と提携して新たなサービスも提供します。「販売員と顧客」という対立する関係ではなく、地域の暮らしを一緒に構成する「身内」としてサービスを仕立てることで、住人が集まり、会話が生まれ、地域のつながりの復活につながっていくというサービスシナリオを描いているのです。
多くのサービスでは、サービス事業をどのように成長や成功に導くのかのシナリオを描いていないことが多いものです。直近の課題として、「いかにして売るか」「いかに効率的に対応するか」ばかりに目を取られていて、大きな方向性を見失ってしまっていることが少なくありません。自社のサービス事業が実現したいサービスシナリオとはどんなものなのだろうか?一度腰を据えて考えてみる必要があると思います。
※社会貢献型移動スーパー「とくし丸」の受賞事例はこちら
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。 |