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【連載】CS向上を科学する

2016年12月12日

【CS向上を科学する:第37回】事例に学ぶ優れたサービスのポイント:プレミアム時短献立キット「Kit Oisix(きっとおいしっくす)」




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己


 

「事例に学ぶ優れたポイント」シリーズ、今回は着眼点が面白いサービスについて「第1回 日本サービス大賞※」の受賞サービスの中から取り上げてみたいと思います。サービスの着眼点について紐解くことで、業種や業界に関わらず、新たなサービスやサービスの価値向上のヒントを掴んで頂ければ幸いです。

※サービス産業生産性協議会(SPRING)が主催する優れたサービスを表彰する制度

 

第1回日本サービス大賞 優秀賞(SPRING賞)
プレミアム時短献立キット「Kit Oisix」(オイシックス株式会社)


出典:第1回 日本サービス大賞 


オイシックスといえば、特別栽培農産物や無添加加工食品の定期購入サービス、産地直送サービスのイメージがありますが、今回取り上げるのは、5種類以上の野菜が摂れる食事2品を20分で調理するための材料とレシピをセットにした「献立キットお届けサービス」です。このサービスは、子どもを持つ忙しい女性を中心に好評を得ており、売上数は昨年対比で240%の成長を遂げています。受賞理由はこう紹介されています。

『健康的な主菜と副菜の2品を20分で調理できる献立キットを宅配するサービスで売上数は250万個を突破(2016年4月時点)。農家との直接契約の強みを活かした安心食材、配達日時指定、調理知識不要など、健康と時間短縮を両立したい働く母親を支えている。お客様宅訪問や子供のモニター「コドモニター」を通じて日々サービスやメニューを改善しており、事業者と顧客の共創サービスを実現している。』


「手間がかかること」が価値になる献立キット

他の献立キッドには、もっと短時間で調理できるものもあるのに、なんでこのサービスが優れているんだろう?そう思った方もいるのではと思います。もちろん、細かく比較してみると、野菜の品数の多さやレシピの豊富さ、注文の簡単さやお届けの柔軟さなど、様々な違いはあります。しかし圧倒的に違うのは、このサービスが応えようとしている事前期待だと思います。

例えば、子供のいる家庭において働く女性が献立キッドにどんな期待をしているのでしょうか。他の献立キッドは、「忙しいから、手間なく手早く調理がしたい」という事前期待に着目しています。だから調理時間は10分~15分程度のものが多いのです。それに対してオイシックスが着目したのは、忙しい女性の「罪悪感」です。「仕事で忙しいばっかりに、子供や旦那さんにスーパーのお惣菜や手抜き料理の夕食になってしまって申し訳ない。。。」そんな思いを感じながら、毎日の調理をしている女性が多いのです。

この「罪悪感」に着眼したからこそ、オイシックスの献立キッドは、調理時間は10分ではなく、あえてひと手間かける20分であることにとても意味があるのです。他にも、5種類の野菜が摂れること、料理が2品作れること、毎週10種類以上ものレシピが用意されていてマンネリ化が防げることも、「罪悪感」を中心に考えるとすべてにとても意味があることが分かります。


価値ある事前期待の種類

このように、サービスがどんな事前期待に応えようとするかによって、サービスの仕立て方や価値の高め方はがらりと変わります。価値ある事前期待に応えることができるサービスは、自ずとお客様から高い評価を頂くことができ、利用者やリピートの拡大によってサービス事業を成長させることができるのです。しかし多くの企業では、何でもかんでも「お客様の期待に応えよう」「お客様の期待を超えろ」と、闇雲に取り組んでいます。これではうまくいきません。まずは、「満たすべき事前期待」をサービス事業の中心に据える必要があるのです。

この価値ある事前期待を見つけることは簡単ではないかもしれません。そこで、今回のオイシックスの献立キッドが「手軽さ」ではなく「罪悪感」に着目したという事例に学ぶとしたら、それは価値ある事前期待にはいくつか種類がありそうだということです。献立キッドを利用する忙しい女性には、「料理の手軽さ」に期待しつつも、「料理の手抜きへの罪悪感」を感じている方が多くいます。しかし、献立キッドへの要望として「罪悪感を感じないようにしてほしい」という要望はあまり挙がってきません。それは、お客様自身で「そこまでは期待しすぎだよね」と、思い留まって諦めてしまっているのです。

お客様自身が「諦めている事前期待」、これはよく潜在ニーズや潜在期待と呼ばれるものの一種だと思います。こういった事前期待に応えられると、サービスの価値や評判がグッと高まります。「諦めている事前期待」は、業界やサービス内容によって様々だと思いますが、お客様の本音と向き合うことで、それを見つけることは可能です。是非、サービス開発やサービス改革のヒントとして、どんな事前期待に着眼すべきかに関心を向けてみて頂ければと思います。
 

※プレミアム時短献立キット「Kit Oisix(きっとおいしっくす)」の受賞事例はこちら
 

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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/