2016年11月21日
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前回から、第1回日本サービス大賞(※)の優秀賞を受賞したフォレストコーポレーションのサービスに注目しています。「家づくりを物語に」というビジョンのもと、自分の家に使う木を選んで切るところから参加してもらうことで、家づくりに対する潜在的な事前期待や価値観にお客様自身が気付いて、家づくりのプロセスが家族の感動の物語になっていくというものです。これはもはや、「家づくりの会社がついでにサービスも頑張り始めた」というレベルではなく、「家がつくれるサービス会社」に生まれ変わったといっても過言ではありません。家という器を提供する以上の価値を、サービスを通して生み出しているのです。そこで今回は、この感動サービスはどのようにつくられたのかについて取り上げてみたいと思います。
※サービス産業生産性協議会(SPRING)が主催する優れたサービスを表彰する制度
出典:第1回 日本サービス大賞
はじまりは、ビジョンと危機感と使命感。そして青臭い志
お客様から高い評価を受けて成長し続けているフォレストコーポレーションで代表を務める小澤仁氏は、信州という地域の文化や経済、自然環境や街づくりに対しての特別な「使命感」を持たれています。そして何より、「信州の地で一生に一度の家づくりをするお客様に心底喜んでもらいたい。そんな“青臭い志”を持っている」そうです。
小澤氏が、父親から経営を継いだのは1996年、32歳の時でした。それからの道のりは決して平坦なものではありませんでした。中でも記憶に新しいリーマンショックでは、これまでの主軸だった賃貸マンション事業の需要が激減して危機感が高まり、住宅事業に主軸をシフトすることを決意。しかしこちらでも、大手ハウスメーカーとの熾烈な競争に勝ち抜かなければ、危機を脱することはできません。
必死になって住宅事業を展開する中で、偶然「持ち山の木で家をつくりたい」というお客様との出会いが生まれました。苦労しながらも、その思いに応えた家づくりが実現したとき、今までにないほどお客様が喜んでくれ、同じくらい社員も喜んでいました。「あれ?今までの家づくりと何か違うぞ。。。そうか!家づくりには物語があるんだ!」こうして、「家づくりを物語に」というビジョンが生まれ、感動サービスが生まれたのです。
今やこのビジョン、危機感、使命感、そして“青臭い志”は、小澤氏だけのものではありません。フォレストコーポレーションの社員ひとりひとりの思いになっています。そして、信州の山守や林業従事者など、このサービスに関わる全ての人の思いになっているのです。だからこそ、県産材流通の川上である林業との連携や、県産材の安定供給のためのストックヤードの設立など、このサービスに欠かせない仕組みを見事構築することができたのです。
出展:第1回 日本サービス大賞
サービスの価値を高める人材の育成
フォレストコーポレーションのつくる家は耐震耐久性・省エネ性などで性能表示制度に基づく最高等級を獲得しており、エアパス工法、県産材や自然素材の使用など、品質や性能面でも非常に高い評価を得ています。さらに着目すべきは、お客様からの評価の高さです。「フォレストの人は、誰に合っても素敵な方ばかりだね」「こんなに親身になってくれるなんて思わなかった」「これからの生き方を一緒に考えて頂けてとても嬉しかった」と。
実はフォレストコーポレーションの平均年齢は34歳ととても若く、約4割が女性です。そして新卒社員を毎年採用しているのですが、学生の「建築の専門性」にはこだわっていないといいます。もちろん入社後には、専門的な知識を習得するための教育も熱心に行われますが、それ以上に、お互いに助け合い、学びあい、刺激しあいながら成長することをフォローするための評価や人材育成の制度の運用にも力を入れているのです。これにより、経営マネジメントも含めて、社員同士の共創が生まれているのです。
これは、日本サービス大賞の内閣総理大臣賞を受賞した「JR九州のクルーズトレインななつ星」とも通ずるところがあります。ななつ星のクルーに採用される方々は、ホテルマンやキャビンアテンダントなど一流のサービス人材です。そんなクルーに対して、配属前1年かけてじっくり教育・トレーニングを行うのですが、その最初に必ず伝えることがあります。「皆さんの今までのキャリアで身に着けた知識やスキルは、すべて忘れてください」と。なぜでしょうか。その理由は、ななつ星の目指すサービスは、「一流ホテルのようなキッチリとかしこまったサービス」ではないからです。「頑張ってくれてありがとう」と、お客様に言ってもらえるサービスを目指しているからです。そのためには、知識やスキルを磨くこと以上に、それぞれのクルーが一人の人間として心を込めてお客様に寄り添った旅の演出をしていくことが、とても大切なのです。
以前、当連載の中で、「サービスの評価は、成果に対する評価とプロセスに対する評価に分解できる」という点を取り上げました。サービス提供者の立場になると、つい「サービスの成果」の方ばかりに着目してしまいます。例えば、迅速でミスのないサービスをキッチリ提供することや、サービスのコストパフォーマンスを高めるなど。しかしお客様はといえば、我々が思っている以上に「サービスのプロセス」の方に敏感な傾向があることが分かっています。だからこそ、プロセスの評価を高めるための人材育成は欠かせないのです。
フォレストコーポレーションの社員は、住宅業界の常識や提供者の都合に流されることなく、お客様の家づくりの思いに応えたいと心の底から思っています。お客様と物語を紡ぐことに対して、簡単に妥協しないのです。時には、経営マネジメントと戦ってでも、担当したお客様の家づくりを実現しようとします。だからこそ、感動サービスを社員一人一人の手で体現することができているのです。そしてその中から、また新たなサービスの芽が出てくるのです。価値あるサービスを生み出すには、専門知識や業務スキルの教育以上に、サービスのプロセスの評価を高めるための人材育成が重要だといえます。
ちなみに、フォレストコーポレーションは、2016年「働きがいのある会社」ベストカンパニーにも選出されています。お客様の感動、社員のやりがい、事業の成長、そして地域の林業の活性化。それらを実現するフォレストコーポレーションは、地域やお客様に共感され、応援されています。まさに地域のみならず、日本の誇れるサービスと言えます。
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。 |