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リーダーの声

2015年5月12日

社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院 理事長 神野 正博 氏

 ~恵寿総合病院が目指すトータルヘルスケアサービス~

何故我々が先端医療から福祉まで「生きる」を応援するか、全体像の背景を説明します。恵寿金沢病院は2014年7月1日にオープン致しました。この病院以外は全部能登半島地域にあります。急性期の病院があり、後は社会福祉法人で、身体障がい者、知的障がい者、高齢者施設、クリニックが4つ、老人保健施設が3つ、私どもの1日の約5000食の給食は一箇所のセントラルキッチンで作っております。それから市が作った温泉事業の健康増進センター「アスロン」を我々が指定管理者としてお受けしています。このように医療、介護、福祉のトータルサービスをやっており、2014年9月に80周年を迎えました。理事長として私は3代目になります。
今1番の悩みは医師不足、看護士不足です。もう1つ患者不足も非常に大きな問題です。

衣食住+医療
2020年、オリンピック招致が出来た理由として、震災復興での注目度、運営力、資金力、交渉力、そして何より他の候補国に比して日本が安心と安全だということで、世界の人に選んでいただいたのだと思います。我々日本人も当然の事ながら、やはり安心安全が大事だと改めて考えさせられる結果だったのではないでしょうか。世界からようこそ、という事で、医療も必要になります。吉田兼好は徒然草で、第一に「食ふ物」、第二に「着る物」、第三に「居る場所」、衣食住が大事だと綴っています。そしてもう1つ、「医療」を忘るべからずで、この4つがないのを貧しいとし、どれも欠けないように説きます。そして4つの他を求める事を奢りであると言っております。日本人が求める安心、安全は衣食住に医療というのは、この時代からの話だったのです。もう1度我々が色々な事を考えていかなければならないと思います。

高齢社会に求められること
2025年問題は、社会保障制度、医療介護など色々な話があります。2014年の12月31日をもって全ての団塊の世代は65才高齢者に突入します。そうなるとこの10年の間に世の中の社会制度を変えていかなければなりません。あるいはビジネスの変革、シルバービジネスはここでやるべきなのです。日経ビジネスで、「シルバー維新、輝け銀の卵たち」という特集がありました。目次を見ると、「壮年よ、大志を抱け」「シニアはこう生かす」「60代総就活の時代」などがありました。シルバー維新はここからの10年だと思います。
以前は高齢「化」社会と言ってましたが、もう「化」ではありません。高齢社会なのです。これから医療介護の負担はどうするのか、国としては真剣です。その点で消費税増税も避けられません。そして高齢社会は有病率が高く、私は大きなキーワードが2つあると思っています。1つが「アフターサービス」。高齢社会では、アフターサービスがとても大事です。例えば救急車で搬送された人が今後どうされるのか、どこまで面倒見れるのか、これがアフターサービスです。もう1つが「シンプルさ」。年を取ると、難しい文章が嫌になってきます。手術ひとつ受けるにしても、長い文章読んでサインをしなければいけない。もっとシンプルに、というのがこれからの時代だと思います。このアフターサービス、シンプルさというのは、医療においてもキーワードになってきます。

地域との運命共同体
医療はとてもローカルな世界です。私どもの病院の患者さんの99%はいわゆる通える範囲です。通える範囲の地域が廃れ人口が減れば、患者さんはいなくなります。これはもの凄い危機感で、グローバル企業とは違うところです。それから、逆に我々の病院から救急、小児科、産婦人科がなくなりと、更に若い人達がいなくなった、という事にもなります。ですから、地域との運命共同体。地域のBCP(事業継続性)の為に、医療というのはとても重要であると思うわけです。
そして毎年超越する医療費も効率化する必要があります。法定価格の中にどう優先権を付けていくかが問題なので、少なくともこれから予防や、医療のコスト削減、効率性の追求を、我々もやっていかなくてはならないのです。それから選択と集中です。日本の人口はこれからどんどん減っていきます。その中で、全ての病院や診療所が今まで通りというわけにはいきません。そうすると選択や集中に残れるかが重要になってくるところです。

今後は、専門の先生達だけでなく、複数の疾患を見るお医者さんが必要です。私どもも「家庭医療センター」というのを作り、大きな柱にしてやっていこうと思います。恵寿総合病院の去年1年間の入院患者数を見ると、43%が75才以上です。75才ですと明らかに入院期間が長くなります。退院も、自宅に帰る人も少なくて施設にいる方が増えてきます。救急車の20%は85才以上、75才以上が半分くらいです。以前は救急車から血だらけの人が出て来ましたが、今では頭痛いとか腰が痛いとかいうお年寄りが出てくるわけです。もう現実にそんな時代で、その人達はこれから不安を抱えて病院を訪れるのです。
もう1つ大きな問題として忘れてはいけないのが、これから高齢者が大都会域に爆発的に増えるという事です。これに対して、国は地域で医療だけではなく、介護からボランティア、サービスも含めて包括的にみなさい、と言っています。東京や大阪に病院や介護施設を造るわけにいきません。そこで在宅医療、在宅介護が一番経済的である、というのがお国の考えた事です。

「時々入院、ほぼ在宅」
これは、新聞の記事の言葉ですが、これからの日本の医療政策を表す言葉です。病院中心の形を見直す考え方です。氷山の一角が入院で、後は全部家で色々なサービス使う、これが一番いいわけです。救急車で行く救急病院、大きな有名病院での入院はおそらく数日、長くても2週間です。その後に同じ病院の中、もしくは別の病院の回復する病床、リハビリーテーション病棟、2014年4月の新たな医療制度で出来上がった地域包括ケア病棟へ行きます。ここでは1~2ヶ月、病気によっては最長6ヶ月居る事が出来ます。帰宅しないと、急性期病院の条件は満たされなくなり、70%の患者さんは、いずれ帰宅しなければならない、という条件が今年から始まりました。それでは大変な場合、訪問サービス、訪問診療、訪問リハビリテーション、あるいはヘルパーさんのお世話になる。少し元気になったらデイサービスやデイケア、風邪などの軽症で入院が必要な場合に地域包括ケア病棟に入る。そして、また急病になれば急性期病院になり、これを回していく仕組みを作らないとなりません。そして、施設を有効利用して、在宅を何とか補てんするのです。在宅は自分の家だけではありません。サービス介護や有料老人ホームなども在宅になります。

地域包括ケアのあるべき姿
今医療の世界では、急に病気になった、急性心筋梗塞になった、脳卒中になったら急性期病床、その後に回復期リハビリテーション、それから在宅という、垂直で連携しています。それと同時に、各地域でとにかく介護と連携する必要があります。私は水平展開、水平連携だと思います。それで2次元です。いま国は地域包括ケアという名前を使って、垂直連携する医療、地域で連携する医療、介護をやるよう押してきています。ただ、本当に連携をとっただけで済むのでしょうか。もしかしたら連携ではなく、統合が必要なのかもしれません。

「先端医療から福祉まで『生きる』を応援します」
我々医療の仕事は、実は治す、救うは必死にやっていたのです。救急医療とか労災医療、一生懸命やっておりました。ところが、高齢人口が増えてくると、治らない人が増えて来ます。そうなると、「癒す」、「支える」、「一緒に生きる」といった言葉がキーワードになってくるわけです。
当院の「先端医療から福祉まで『生きる』を応援します」、の真の意味は、アフターサービスです。先端医療、救急から新しい治療法から福祉までの、全部をアフターサービスで診ていくという事です。

来年3月オープン予定でサービス付き高齢者住宅、ケアハウスというものを造っています。病院の目の前で安心です。このような介護の施設を作る事によって、灯りがつく、あるいは地域のコミュニティセンター的な役割を担うこともあると思います。病院の品質や企業の品質もありますが、これからは地域の品質がキーワードかと思います。地域の品質にいかに我々が関わっているかということが、これか1番大きな戦略になると思っております。

(SPRINGシンポジウム2014in京都にて)