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リーダーの声

2015年3月31日

株式会社オオクシ 代表取締役 大串 哲史 氏

  ~ビューティービジネス産業の       
          
オンリーワンの実現に向けて~ 

         


オオクシは12年連続で2桁成長し続ける事が出来ました。2014年11月で創業50周年、私が経営者になって17年目をお陰様で迎える事が出来ました。1店舗の理容店を父親から譲り受け多店舗展開をしてきた中で、行ってきた取り組みをご紹介致します。

理美容業界の現状
理美容業とは、身近ですがなかなかご存知ない業種ではないかと思います。実は国内最多事業種の業種で、理美容業合わせて店舗数36万件以上件あります。コンビニエンスストアが5万件~6万件くらいの間ですので、約6倍、7倍くらいのオーバーストア状態です。最近では廃業も多く、2009年をピークに減少をしてきていると言われており、非常に厳しい業種です。
平成21年度の理美容業平均税務指標は大幅な赤字でした。現時点も法人は赤字で、これだけ厳しいと福利厚生費で大変な事が起きてきます。1人あたり1ヶ月の売上高が少なく、理美容業の平均年収は約260万円と言われています。9割以上が社会保険未加入で、「入ってない」ではなく、「入れない」んです。もうセーフティーネットというものが機能していません。出来ないのです。やったら生き残れない、これがオーバーストアの最先端業種で起きている現実です。転廃業者が急増し、廃業してまた勤めるということも起きています。当社のスタッフのうち50名くらいが元経営者です。
オーバーストアになると、どんどんマーケットが縮小します。今理美容業の1店舗あたりのマーケットは半径500メートルです。絶対やってはいけないのが割引合戦です。生き残るためには一度来ていただいたお客様に何度も来てもらい、リターン率を上げるしかないのです。キーワードは適者生存、必要なものは生き残り、必要でないものはなくなります。いかに必要とされる店づくりに変えていくのかが、1つのテーマだと思っています。
おかげさまで経営に関する多数の賞をいただきましたが、私はもともと理容師なので経営がよく分かりませんでした。賞を申請すると、コンサルタントの人や大学の教授の方が審査のために見に来てくれます。2~3時間かけてどこが悪いか教えてくださいと、とことん聞きます。そうやって賞を頂くとまた次の賞に応募する、また頂いたらまた応募する、そして問題点があったら教えていただいて直す、というサイクルで賞の応募を通して経営の質を高めてきました。


お客様に喜んでいただける仕組み
まずリターン率を上げる事から始めました。美容室の場合、3回目以降のご来店から再来店のカウントになることが多いのですが、当社の実際のリターン率は、すべてのお客様を対象としていますので総再来店率と呼んでいます。1番高い店舗が95.5%、会社平均が約85%、3回目以降の再来店率だけみると殆ど全店舗90%超えています。そこまで来るにはどういう取り組みをしたのかを、具体的にお話します。
店舗でリターン率が高かったスタッフを私達は研究しました。データで分析したら、カットのレベルは高くないのですが、すごく再来店率がいい女性スタッフがいました。その子が何故高いのか徹底的に調査したのです。日ごとに交代で入り口に立ち、その子がカットしたお客さんが出てきたら「どうでしたか?」と聞き、「丁寧だった」と言われると、「具体的に何が丁寧でしたか?」と、お客様にこちらから尋ねて感想を拾い集めました。それをまとめたものをマニュアル化し、一つひとつ実行して全体の再来店率を上げてきました。
それからお客様にアンケートを書いていただき、本来もらってはいけない項目のクレームについては、どんな小さな事でも徹底的に対処しました。震災後はお客様が求めるものが変わりました。「今日病院で先生に冷たくされた」、「ガン宣告された」、「孫が入学しました」など、お店に全然関係ない事が書いてあり、最初は驚きました。これがこの業界だけなのかはわかりませんが、人と人とのふれあいが、今お客様が求めているものだと認識しました。ですから返事を全部書きましたが、一切商売の事には触れていません。「入学されて良かったですね」、など完全に文通です。これが日に日に増える一方です。
割引券などではなく、人と人との繋がりや安心感などを求められるようになったと感じています。これがここ数年で大きく変わった事です。お客様が望まれることにしっかり応えていくことが成果に繋がります。お客様に感動して喜んでもらえる事には出来る限り真摯に取り組んでまいりました。

 
(お客様からのアンケート)

従業員に喜んでもらう仕組み
理美容業の離職率は40%と言われています。転職すると持っているお客さんの数などでも給料が一気に上がります。転職した方がメリットのある業界で離職率を下げるのは至難の業でしたが、ここを一生懸命やりました。現時点で全体の離職率が10%以下と非常に低くなりました。どんな取り組みをしたかというと、これもアンケートです。従業員に匿名で好きなように書いていいと、離職率が高い時に始めたら私が具合悪くなりました。でも非常に勉強になったのです。望まれているのはお給料だと思いましたが、実は全然違いました。1番スタッフが望んでいたのは、いい仲間と働きたいという事だったのです。2つ目はお客様に褒められたい、それがこの業種の喜びだということでした。そして成長を実感したいということ、この3つをしっかり与えてあげていれば離職率は下がると確信しました。そのために理美容業では常識だった指名制やノルマなど一切止めました。アンケートはきちんとコピーして本人に渡し、お客様に喜ばれるという実感も与える事が出来ました。お客様との関係を壊さないよう転勤も止め、そういう配慮で物凄くやる気になってくれたのです。そして会社と社員の人との信頼関係を作るために、会議も全部録音して議事録を作り配布しました。個人給与以外の数値は全部公開しました。全体の数字を見ていますから、会社全体を考える社員が多くなり非常に目線が高くなりました。これは凄く良かったと思っています。

利益を出す仕組み
データを分析していくと、いい部分とダメな部分が見えてきます。データを絞り、やらない事を決めるのです。そして無駄をなるべく省き、4人でやるところを3人でやるなど、とにかく1人あたりの生産性を上げるという工夫をしました。会社、スタッフ、お客様にとっていい事しかやらないと決めたため、判断がすごく早くなり、物凄いスピード感と決断力が出来ました。そしてリターン率を上げる事によって、実はすごいコスト削減になりました。お客様の求めている事がわかったので、求めてない事は全部やめて初期投資がかなり抑えられました。経費をかけて元が取れるのは投資、かけて売り上げが上がらないのは経費です。お客様が望まれるものだけは経費をかけて望んでないものにはやめると、経費は基本的にゼロで投資だけになります。

「何のために」という理念を伝えるのが私の仕事と思っていますので、一生懸命現場に行き話をするようにしています。目的を明らかにするため、店舗のスタッフ達とこのお店は何のためにあるのか、何のために理美容師をやっているのかと話し合うのです。何のためにという事とビジョン、それを価値のある目標に変えて共有し、みんなで達成していこうという形でやっています。

(「SPRINGシンポジウム2014 in盛岡」事例講演にて)