2014年12月18日
吉本興業グループのエンタテイメントビジネスと未来像
~変わらないために変わりつづける努力~
日本の芸能関係で完全にエージェント(代理人)であるのは吉本だけです。欧米は、芸能人はプロダクションではなく、ほとんどエージェント契約です。吉本は大阪の劇場を活動の中心としていたので、ある意味で健全な経営をしてきています。近いところでは宝塚や松竹(歌舞伎)などです。吉本に関してはアドリブに寄るところも大きいのですが、舞台や映画やライブの制作もやりながら、テレビ・ラジオ番組の中でのトーク番組というニーズにも対応している背景もあり(コンテンツを)所属の芸人さんたちの発想力やトーク力をフルに発揮して多数つくれるため、大量生産できる報道通信と親和性が高いものとなるエージェントなのです。
会社の全貌
創業当時は次々と寄席を入手、チェーン化に乗り出しました。60年前に上場し2010年には上場廃止に踏み切りました。これは企業としての一層の成長と自由な経営を目指してのことです。上場廃止後の現在の株主構成は放送局、電話会社、インターネット会社、広告代理店、親密企業などです。株主利益を重視した経営から成長と自由な経営の為に2010年、上場を廃止しました。現在はホールディングスの下に、プロダクション会社やレコード会社などがあり、「ニュー・スター・クリエイション(NSC)」という芸人やタレントの育成機関であるシステム(学校)も持っています。スタッフ養成機関「よしもとクリエイティブカレッジ」、笑って楽しんで学べる「笑学校」の運営も行っております。
しゃべりの文化では西高東低であるため、売上は東京が7割ですが、開発部分で面白い人間が集まっている関西で新人の育成を図っているのです。すぐに新人が出ていると思われがちですが、大阪の劇場やラジオ、テレビの深夜などで訓練して駆け上がってきた芸人たちが東京に出てきているので、東京に出た時点では、かなりのレベルの高いタレントになっているのです。よしもと所属タレントは総勢6000人以上、芸人だけではなく様々なジャンルのタレント、アスリート、文化人、俳優、スポーツ選手、アーティストが所属しています。年収5000円からウン億の人まで様々です。
「垂直統合型のビジネスモデル」
「NSC」→「タレント・アーティスト・アスリート」→「TV・ネット・携帯などのコンテンツパッケージメディアの制作」→「劇場・イベント・携帯・紙媒体」という製造・卸・直売という販売モデルです。企業様と吉本興業のコンテンツを掛け合わせ、様々なプロジェクトを行っています。エージェントであるので、海外でも取り組みやすく、海外の有名なアーティストやアスリートのマネジメントもしています。
「コンテンツビジネス」
コンテンツをプラットホーム側でなく表現者側から見ると、テレビ、映画、書籍、ライブ、グッズや多彩な公演、放送、配信、ゲームなど、多数のコンテンツがあります。
図のようにすべてのプラットホームは、コンテンツ側から見れば、全て等距離にあることが判ります。ここが今までの業界ヒエラルキーで育った業界人には、一番理解しにくい部分です。ここを理解して頂くことが重要なポイントとなってきます。
通信の自由化の影響もあります。今までのように、「番組に出るため」などでなく、表現者が中心のビジネスになってきました。自分が本当に表現したいものを垣根低くできるようになっているのです。自分が考えたものが自動的にお金につながるようにもなり、エンタテイメント業界のヒエラルキーが崩れつつある時代に入ったと言えます。
どんな業界でも一緒ですが、崩れて困る、崩れるから面白いといういろんな考え方があります。時代の変化は、利用者・享受する人が変えていくものでしょう。マネジメントが変わらざるを得ない時代なのです。極端に言うと、サザンの桑田さんレベルのアーティストが出てきて、「売れる自信がある」と言って一人で曲をつくって配信すれば、収入がすべて本人に回り、完結してしまう可能性もあります。これからは10人が喜ぶものから10万人が喜ぶものまで、お客様のニーズに応じてそれなりの労働に見合うシステムが加工されていくのではないでしょうか。
「吉本のビジネスプラットホーム」
日本のエンタテイメントをアジアへ、そして世界へ。“よしもとのチカラ“というプラットホームから、国内とアジア、海外において保有するノウハウ、ネットワークと知見(メディアリレーション、イベント、番組など)を存分に活用し、マネジメント、企画制作、プロモーションを行うことが可能となっています。中国では、上海のメディアグループと連携して、日本のエンタテイメント、流行や文化を紹介する番組を配信しています。その他にも、2011年4月から始まった「あなたの街に住みますプロジェクト」では、全国47都道府県に「住みます芸人」を居住させ、同じく各県に住むエリア担当社員とともに、地域に密着した活動を展開しております。
吉本興業が創業102年目に入る、という意味では、エンタテイメントでは長くやれていると思いますが、浪花節や漫才など色々と挑戦した時期があり、お笑いの歴史をつくっていくことが出来たのではないでしょうか。毎年流行るギャグもコンテンツとして残そうとすると、当時はレコードしかなかったため早くて3〜4ヶ月かかっていました。それが今では、通信の発達によってその日に配信できるようになりました。即時性のあるコンテンツが作れるようになってきたのです。そういう意味では、お客様に直接来ていただく劇場を今まで以上に大事にしながら、様々なテクノロジーを活用したコンテンツを提供して行きたいと考えております。
劇場は漫才、落語、新喜劇など多様なエンタテイメントが365日楽しめる発信地となっております。沖縄国際映画祭では、“Laugh & Peace“をコンセプトに、映画、映像、音楽、ファッション、お笑いなど分野を超えた様々なエンタテイメントを融合し、毎年春に開催しています。
本当に才能のある人を育成し、マネジメントの原点からエンタテイメントづくりに貢献していきたいと思っております。
(SPRINGシンポジウム2014にて)