2014年11月5日
ワクコンサルティング株式会社
サービス改革コンサルタント
松井 拓己
■はじめに
CS向上(顧客満足向上)やサービス向上の活動は、多くの企業で取り組まれるようになってきました。しかしその実態は、「顧客満足」や「サービス」は目に見えないために何から手を付けて良いか分からなかったり、活動が現場任せでなかなかうまく進められなかったり、成果に繋がらずに苦悩していることが多いようです。そんな中でも、CS向上やサービス向上で劇的な成果に繋げている企業では、CSやサービスの本質やロジックを理解して、組織的なレベルアップに取り組んでいます。
そこで今回の連載「CS向上を科学する」では、CS向上を組織的に取り組んで頂き、経営貢献に繋げて頂くための本質の理論や努力のポイントを、様々な企業のCS向上やサービス向上のご支援をしてきた立場から紹介したいと思います。
■ところで、顧客満足の定義って?ここから重要なポイントが見えてくる!
これまで顧客満足向上について議論し、活動してきた企業でも、「顧客満足の定義は?」と聞かれると答えに困ってしまうことが少なくありません。実は、CS向上に苦戦する原因の1つがここにあります。顧客満足向上に取り組んでいるにもかかわらず、「顧客満足の定義」がばらついているようでは、議論や活動がかみ合わないのです。CS向上に取り組むからには、その最初の一歩として、顧客満足の定義について組織で共通認識を持つことが極めて重要です。
それでは、顧客満足の定義とは一体どういうものなのでしょうか。下図をご覧ください。
このように、『顧客満足は、お客様がサービスを受ける前に抱いている事前期待を、サービスを受けた後の実績評価が上回ったときに得られる。』ここでは顧客満足をこのように定義します。たとえば、出張先でたまたま利用した格安のビジネスホテルがとてもキレイで、対応がとても親切、料理は地元の素材にこだわっていて思いもよらない美味しさだったとき、「思わず良いホテルを発見した」「また来よう」「同僚にも勧めよう」と思う、といった具合です。この場合、ホテルを利用する前の事前期待が小さかったのに対し、実際利用してみたら思った以上のサービスで「実績評価」が事前期待を上回ったため、満足を感じたということになります。
逆に、次の図のように、事前期待よりも実績評価の方が小さいと、ガッカリされてお客様を失ってしまいます。
たとえば、先ほどのビジネスホテルを、職場の同僚に「出張先で過去最高に良いビジネスホテルを見つけた!」と意気込んで紹介したら、同僚が利用した際の評価がイマイチだった、という具合です。これは、「過去最高のビジネスホテル」と紹介したことで、同僚の事前期待が大きく膨らんでしまったばっかりに、実際は同じサービスを受けたにも関わらず、実績評価が事前期待を越えられなくて、同僚は満足を感じられなかったのです。
また、3つ目の図のように、事前期待と実績評価がほぼイコールだと、印象が薄いので競合他社にお客様を奪われてしまう可能性があります。可もなく不可もないサービスでは、お客様にしてみれば「特にここのサービスじゃなくても良い」と思われてしまうので、他社がちょっとしたキャンペーンをすると、あっという間にお客様を奪われてしまう恐れがあります。
この定義は、言われてみれば当たり前の内容でイメージ通りという印象を持った方も多いのではないでしょうか。しかし実はこの定義から顧客満足の本質を理解すると、我々のこれまでの活動の進め方が少し筋違いだったかもしれないことに気づきます。
■今までのCS向上の議論が筋違いだったかもしれない?!
顧客満足の定義のポイントは、「顧客満足は絶対値ではない」ということです。つまり、事前期待と実績評価の「相対値」で顧客満足は決まります。
このポイントを踏まえて、我々が今までCS向上のために「いかにお客様に喜んで頂くか」というテーマで議論してきたことを思い返してみてみましょう。すると、少し筋違いだったかもしれない点に気づきます。それは、議論の内容のほとんどが、「お客様からの実績評価をいかに大きくするか」にしかフォーカスできていないことです。先ほどの顧客満足の定義によれば、「顧客満足は事前期待と実績評価の相対値」なので、「実績評価」の方だけに着目してCS向上に取り組むのは筋違いだと言えます。
つまり顧客満足を向上しようと思ったら、お客様の「事前期待」を掴まなければ、意味がないということです。この考え方をしっかりと組織で共有したうえでCS向上に取り組めるかどうかが、現場任せ、個人任せから脱却して、組織的にレベルアップするために、とても重要な一歩になるのです。
■ではこれからのCS向上はどうしたらいいのか?
これまでに見てきたように、CS向上のキーワードは、「お客様の事前期待」です。しかし、お客様の事前期待と一言でいっても、実に多種多様です。お客様の事前期待を掴んでそれに応えましょうと言っても、現場は何をしたら良いものかと困ってしまいます。
そこでまずは、「CS向上のために、我々が満たすべき事前期待は何か?」を徹底的に議論して、CS向上活動の目標値として据えることが大切です。どうしてもCS向上やサービス向上の活動は、目標値を据えずに、闇雲に努力していることが多いのが実態です。これではやはり、うまくいきません。目標を定め、そこに向かってベクトルを揃えて、組織一丸となって取り組む必要があるのです。
とはいえ、事前期待についての議論は案外難しいものです。そこで次回は、「事前期待」とは一体どんなものなのかについて理解して頂くために、事前期待の構成要素とそのポイントを、事例を交えてご紹介してみたいと思います。
連載「CS向上を科学する」を通して、顧客満足やサービスの本質の理論や事例を知っていただくことで、少しでも読者の皆様のCS向上の取り組みのお役に立てれば幸いです。
以上
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<筆者プロフィール>
松井 拓己
ワクコンサルティング株式会社
取締役副社長執行役員
サービスサイエンスチームリーダー
サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
経歴としては、大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務めた後、現職に至る。現在はワクコンサルティング(株)のサービスサイエンスチームリーダーに加え、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集う同社にて、取締役副社長執行役員としてサービスマネジメントに従事している。