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リーダーの声

2014年9月30日

株式会社公文教育研究会 取締役 石川 博史 氏

「公文」から世界の「KUMON」への展開
~学び続ける集団づくりの経営~

 


 我々は教育を世の中に提供しており、教育の価値を高めるための「人」が大きな役割を果たします。人の成長がトータルでKUMONの成長につながると考えていますので、その学びを個人の努力に任せるのではなく、組織で学び合う仕組みをつくることが使命であり、KUMONの歴史となっていると考えています。
 

KUMONのグローバル展開の特徴

 KUMONは設立から、今年で56年目になり、現在では海外の学習者の割合は全体の約2/3に上ります。

 なぜKUMONがグローバルに広がっているのか?KUMONの特徴を4点お話ししたいと思います。
 まず、KUMONは子どもたちが将来自立するための基礎学力を身につける、つまり、自学自習力、やればできるという自己肯定感を身につけてもらうことが学習の目標です。受験を目的としている訳ではないことが、どの国でも共感をもってもらえます。
 次に、KUMONは算数・数学、国語・外国語に限っています。算数・数学では、微分積分を最終目的にし、“何年生から・・・”というような区分は設けておりません。国語は、高度な読解力を身につけてもらうのが本来目的です。指導要領に準拠していないことが、どの国でも受け入れられやすい理由かと思います。
 3点目は、どんな子どもでも学習することができるという点です。その学習を始めるに当たって、特定のスキルや既得の知識は問いません。ですから、どんな子でも始めることができますし、障がいがあるお子さんでもできるのです。
 4点目は、指導者の非常に大きな存在です。指導者は、その国・地域に住んでいる方を採用します。その方たちはその地域の子どもたちを成長させ、育成したいという高い志をもって取り組んでいます。どの国に行っても、KUMONの雰囲気は変わりません。指導者の役割も同じです。「子どもの学習の様子をじっくり見る→その子の力に合わせた教材を用意する→できたらほめる」です。子どもたちの学びたい気持ちを引き出すのです。
 

KUMONの学習価値

 世界共通の教材と個人別指導で、1組の学習者と指導者の間で、学習価値が創られます。創始者が公文式をつくるにあたり、「その日の子どもの出来具合を見て、次の日の教材をつくる」というやり方を原型としました。

 では、個人別指導で子どもたちはいったい何をやっているのかと言うと、「ちょうどの学習」です。子どもというのは、その子のその時の「ちょうど」の課題を与えられた時は、喜んで自分からやるものです。そしてやった課題を見た大人がほめることによって、また次なる課題にチャレンジしていく力が身に付いていくのです。ただし、「ちょうど」というのは非常に難しいものです。子どもの気分のあり方など、そのときの「ちょうど」は何かを、常に考え学びながら指導者は課題を与えています。そしてなるべく早く、最大限に能力を伸ばしていける、子どもがより伸びていくための「ちょうど」はどこか、が重要です。この辺りが、非常に個人別な作業となり、指導者にとって難しい部分です。

 創始者の言葉で、とくに重要なものだと思うものをご紹介します。一つ目は、『どの子ものびる』という言葉です。その子がどのように成長するかは環境が影響するものであり、どんな子どもでも、その子なりに伸びていくのだという考え方です。二つ目は、『悪いのは子どもではない』という考え方です。「できないのはこの子が悪いからだ」とあきらめた時点で、教育はストップしてしまうのです。悪いのは子どもではない、その子に「ちょうど」を与えられないあなた(指導者)ですよという考えです。三つ目は『こんなものだはいつもなく、もっといいものはいつもある』です。つまり、(指導者の)未完成の自覚です。これで指導が十分にできたと思ってはならず、常に未完成であることを意識しなければいけません。四つ目が『子どもから学ぶ』ということです。常に子どもの状態から学びなさいという考えです。特にこの4番目が当社の中では非常に大きなキーワードとなっています。
 創始者が言っていること、およそ教育ということに関しては当たり前のことだと思いますが、なかなかこれを徹底するのは難しいです。KUMONでは『学習療法』というものも開発しています。認知症の高齢者が読み・書き・計算をすることによって認知機能の維持・改善を改善するというもので、高齢者施設に導入しています。東北大学川島隆太教授らと共同で開発し、科学的なエビデンスを持った認知症改善プログラムとして国内1500・海外6施設に導入されています。人間は弱いもので、施設で働いている志の高い人でも、高齢者を憎くなる時がある、それをずっと続けていると、いつか高齢者に対して手を上げてしまうのではないかと怖くなると聞きました。教育者も「悪いのは子どもではない」と頭では分かっていますが、日常の中に埋没していくと、つい「ああ、この子が悪いんだ、この子のせいだ」などと考えてしまいます。ですから、それを高齢者のせい、子どものせいというのは間違っているということを、常に愚直に周りと言い合っていることで、KUMONの事業を永く続けているのです。そこが、当社の良いところであるとも言えます。
 

公文式「知識の三層構造」

 3年前に、青山学院大の小野譲司先生や一橋大の藤川佳則先生と一緒に、公文の学びのメカニズムを研究し、学ばせていただきました。それがこういう三層構造です。

  1. グローバル共通の部分
    不易の部分=絶対にゆるがしてはならないもの(公文の理念・価値観など)
  2. 複数の事例を通じて蓄積する准ルール「標準化」
    流行の部分=時代にあわせて変えていかなければならないもの
  3. 指導者一人ひとりの指導体験
    現場での知恵=指導者が日々身に着けていく知識や経験(暗黙知)

 1971年に上記2の部分、「標準化」の挑戦が始まり、『指導についての留意事項』というものが誕生しました。これは、細かいマニュアルとは違い、考え方を示したものです。この時から創始者が現場の知恵を非常に大切にしていて、現場から学んでいくという姿勢をつくりました。本来なら「指導書」「マニュアル」と書けばいいのですが、公文式の学習指導は「こうである」というものを指示せず、「こういう場合はこうしたらよいのではないですか」と書いた「留意事項」としたわけです。
 

“暗黙知を暗黙知のまま共有する”

 グローバル展開が進む中、「暗黙知」を共有する障壁が高くなってきました。というのは、以下の理由より、公文式は非常にあいまいな部分があるからです。

  • 高コンテクストと低コンテクストの違い
  • 文化価値観の違い
  • 各社法人の成熟度の違い
  • 指導責任者の意識の違い

 そこで、『指導原理解説書』を作成し、考え方を共有していく整備をしました。また、全世界の先生が集まって意見交換する「グローバルフォーラム」を開催しています。ここで、日本の先生方の知恵が重要になってきて、各国の指導者で軸合わせをする場も設けています。最近では“暗黙知を暗黙知のまま共有する”方法で、学習の様子をビデオで撮って、別室でモニターし、議論するという研修も始めました。

 そして暗黙知を現場の実践に生かすために、「小集団ゼミ活動」を昨年から日本で開始しました。これは、現場の指導者の知恵を集めて通常なら紙に落としてマニュアル化するものを、学び合うプログラムにしたのが特徴です。一回目で学び合ったものを自分の教室で生徒にモニターして、そこから得たことを二回目で学び合います。それをまた三回目に繰り返していく・・・といった中で、自分と他の指導者の実践を比べながら学んでももらうのです。


 今回ご紹介したことは、まだまだ現在進行形でチャレンジ途中の取組みですが、皆様のお役に立てていただければ幸いです。

以上



(2014/4/18 SPRINGシンポジウム2014 講演にて)