2012年9月7日
冒頭、モデレーターの新井民夫・芝浦工業大学工学部機械工学科サービス工学研究室教授より、「科学的な裏づけのある、導入しやすい手法や指標などを学び、自身のレベルを高めてほしい」と挨拶をいただきました。
その後、事例発表で、松本武浩・長崎大学病院医療情報部副部長から、「病院内業務のサービス生産性向上のための病院情報システムの利活用」と「地域医療連携システム『あじさいネットワーク』による地域完結型医療の質向上」の2つのテーマについて発表いただき、その後、技術解説として、本村陽一・産業技術総合研究所サービス工学研究センター副研究センター長に「大規模データを活用する情報技術によるサービス生産性の向上」についてお話をいただきました。
<病院内での工学的アプローチを用いた生産性向上>
1つめの事例では、長崎大学病院・松本副部長より、勤務されている長崎大学病院でご自身が進められた、大学病院における情報システムの導入を中心にした生産性向上について発表していただきました。
医療現場では、医師の過重労働が近年問題になっています。この原因が在院(入院)日数の平均が減少し回転が速くなっていることと、医療従事者の人手不足であり、その解消のためには、生産性向上が必要であるとの考えからこの取り組みが始まりました。
生産性向上の施策としては、まず、あらゆる業務の電子化を行い、全ての業務が端末上で完結するようにし、業務サイクルの高速化が進むとともに業務がどこでも行えるようにしました。例えば、患者のベッドサイドで電子カルテを閲覧できるようにすることで診療効率向上等の業務効率化を図る等の施策です。
また、電子化とともに、業務の集中化、標準化、業務分担の見直しも同時に行いました。例えば、メディカルサポートセンターを設置し、例えば、入院説明や持参薬の管理など事務でできる業務を事務に任せる体制を整え、医師・看護師がそれぞれ、本来やるべき業務を行えるようにし、生産性の向上を図りました。
<地域完結型医療の質の向上>
2つ目の事例も引き続き、長崎大学病院・松本副部長より、長崎地区で導入された「あじさいネットワーク」(長崎地域医療連携ネットワークシステム)を紹介いただきました。
このネットワークは、診療所や他の医療機関が総合病院のカルテ情報を診療利用するITを使った地域医療連携で、現在、150機関が利用しています。
このような地域医療IT連携が必要になった背景には、総合病院における医師業務の多忙化で、「逆紹介」といわれる、総合病院→専門病院、診療所への紹介が必要になり、その十分な情報連携が求められるようになったことがあります。
コンセプトは、「病院完結型医療」から「地域完結型医療」へ移行することで、地域完結型医療では、急性期治療、回復期治療、継続治療それぞれで異なる医療機関を経て治癒することを想定しています。「地域完結型医療」を実現させるためには、手間をかけずに病院間で情報共有することがポイントで、「あじさいネットワーク」が一役買っています。
<大規模データを活用したサービス生産性向上>
最後に、産業技術総合研究所・本村副研究センター長より、行動履歴系ビッグデータからのモデリングを用いたサービス生産性の向上の活用事例を紹介いただきました。
小売サービスや通販、外食店舗等において、顧客の購買行動などの大規模データを活用することで顧客を理解し、需要を予測することで生産性向上を目指しますが、特に現在は、状況によって行動が変わることを念頭に入れる(例えば、一人で行くときにと、誰かと一緒に行くときに選択する映画が異なる 等)研究が進んでいるそうで、それを想定したモデル化についてお話をいただきました。