2014年2月10日
~現実を直視し、果敢に挑戦を~
2013年7月、今後の成長を目指し、さらには当社グループ全体の筋肉質化に向け、グループ横断の「変革推進会議」を立ち上げた。とりわけ、主力の国内教育事業の「通信教育」が時代の波に適応できなくなるのではないかという危機感があり、事業モデルを大幅に変えることを決意した。デジタル化に向けて積極的に舵を切ると同時に、ハイタッチ(人的サポート)を組み合わせることで、完全個別対応することを目指している。
また、日本の子どもたちのグローバル化をどう進めていくかということが問われ、海外留学への関心が高まる中、言語スキルの向上支援と併せて、多様な選択肢を提供していきたい。たとえば、「ベネッセグローバルキャリアアカデミー」では、オーストラリアの公立専門学校TAFE(州政府ごとに運営される総合的な職業教育機関)へのキャリア留学をサポートしているが、日本では目立たなかった子どもでもしい自分に生まれ変わり、現地でイキイキと頑張っている光景を目にする。ハーバード大学をはじめとした名門大学に進学することをサポートする講座も開設し、実績を上げているが、それだけがグローバルキャリアを積む道ではない。多様な進路もあるのだということを提示していく必要性を痛感している。
一方、シニア・介護領域においては、「トータルシニアリビング」(住み慣れた地域の中で、高齢者がその人らしく暮らし続けていけるための場と人によるサービスの提供を目指す仕組み)の実現に努めている。お一人お一人のニーズに応えるためにも、サービスを複合的に展開できる地域サービスネットワークの形成を進めるとともに、ドミナント展開の強化を図っている。
その他、筋肉質化を含む諸々の事業変革推進活動に会社を挙げて取り組んでいるが、事業が転機を迎えた時に大切なのは、原点や理念に立ち返り、何のためにそれをするのかということを考え抜くことではないか。当社の創業者である福武哲彦は『売上は信用のバロメーター、利益は経営努力・経営の効率化のバロメーター』という言葉を残しているが、単に数字の辻褄合わせをすることが目的なのではない。売上が落ちるということは、お客様の我々に対する信頼が落ちていることなのだと、もう一度これを深く心に刻み込む必要がある。
「ベネッセアートサイト直島」(瀬戸内海の直島、豊島、犬島を舞台に展開しているアート活動の総称)も、地域振興の一つのイノベーションだと自負している。瀬戸内海の島々というのは、数々の精錬所やハンセン病の療養所、豊島の産業廃棄物不法投棄の問題に代表されるように、明治期以降の近代化の負の遺産を背負わされてきた上、少子高齢化に伴う過疎化が進んだ、まさに忘れ去られていた地域であった。そのため、遡ること20数年前、「ここをアートの聖地にして、世界中から人が集まるようにしたい」という福武總一郎・現会長の言葉を、誰もが絵空事だと思っていた。しかし、美術館にとどまらず、過疎で廃業した病院や廃校・休校になった校舎、朽ち果てた民家などを利用して、アーティストがそこを作品にする活動等を地道に積み上げてきたところ、今年開催された「瀬戸内国際芸術祭2013」は、多数の外国人を含む107万人が来訪するまでに至った。 海外の雑誌で「直島メソッド」と命名され、アートの力で地域再生をした事例として取り上げられるが、その活動というのは、やはり住民との本当のコミュニケーション、信頼感がないと続かない。アーティストが現地に滞在し、美術館の外に出てワークをすることで地元のお年寄りとの交流が始まり、アート作品を見に来た人たちに対するお年寄りによるボランティアガイドが自然発生的に生まれた。上から目線の地域再生ではない。芸術至上主義でもない。地域と連携し、住民たちの目線による活動に取り組んできたことも目に見えない力となり、地域全体が活性化したのだと認識している。
翻って、日本全体のサービス産業の課題は何か。日本の総人口は日本の総人口21世紀末には5000万人を切るかもしれないという予測も出ているが、わが国の人口は減少の一途を辿っているという疑いようのない事実を直視し、海外に成長の機会を求めること。他方で、国内の、とりわけ労働集約型のサービスについては、労働力人口の不足分を補充するため、様々な規制を見直し、外国人労働者の活用を視野に入れること。日本人がサービス提供者の多数派を占めているうちに、おもてなしを含めた日本型サービスを確立し、外国人が働くインフラを整備していくことが、サービスの質を維持していく上で不可欠ではないだろうか。
福原 賢一 氏(サービス産業生産性協議会幹事)・談
生産性新聞2013年12月5日号「サービスイノベーション~今後の展望~」掲載