2014年2月10日
株式会社スターフライヤー 代表取締役社長 米原 愼一 氏
~スターフライヤーのおもてなし「人」と「心」を大切に~
皆様こんにちは。スターフライヤーの米原です。私どもの会社は、JCSI(日本版顧客満足度指数)の国内交通部門で5年連続、顧客満足度1位をいただいております。そのおかげで、2020年の東京オリンピックに向けた「おもてなし」というテーマで、非常に多方面からお問合せをいただいております。
スターフライヤーに関わるまで
私自身は航空会社畑の人間ではなく、「サービス」や「おもてなし」というテーマからはもっとも縁遠い存在でありました。1950年生まれで、大学を卒業してから商社に入社し、長くサラリーマンをやっておったのですが、40代の後半に自分の人生を考えたときに、「50を過ぎて仕事にアクセクしているよりも、自分の生き方を貫きたい」と思い、50歳で会社を辞めて農業を始めました。仲間たちには、「20世紀をもって仕事を辞めます。21世紀には好きな生き方をさせてください」と、わりにかっこよく言ったつもりだったのですが、周りからは「いい歳して何考えてんだ」というふうに言われました(笑)。
そんな流れで、伊豆で百姓をやっていたのですが、友人に声をかけられたりと、色々と状況の変化がありまして、2009年にスターフライヤーに関わることになりました。お陰様で、これまでCSにおいて良い評価をいただき、現在に至っております。CSでなぜ高い評価をいただけたのか?その理由について、今日は少しご説明したいと思います。
スターフライヤーの企業理念とホスピタリティ
私ども航空会社はサービス産業の領域で、どの航空会社も「おもてなし」の分野であると思われがちですが、実はよく見てみますと、企業理念の中で「人と心」「ホスピタリティ」に重きを置いているのは、当社だけなのです。
スターフライヤー企業理念
私たちは、
安全運航のもと、
人とその心を大切に、
個性、創造性、ホスピタリティをもって、
『感動のあるエアライン』
であり続けます。
安全運航に触れているのは、日本航空、全日空でも同じです。しかし、そういった既存エアラインでもない、ソラシドエアやエアドゥ、スカイマークなどの新規航空会社と言われる航空会社とも違った会社をつくろうと思い、今までの失敗や成功などを精査した結果、「ホスピタリティ」「おもてなし」を中心に掲げた企業を設立することになったのです。安全運航やサービス運賃など、他の航空会社が持っているもの以上に、追従し得ない独自のサービスを実現しよう、その中心にホスピタリティを据えようと考えました。
スターフライヤー行動指針
安全運航に徹します。
自らの仕事に責任と誇りを持ちます。
お客様の視点から発想し、創造します。
仲間とともに輝き、ともに挑戦します。
感謝の気持ちと謙虚さをもって人と社会に接します。
では、スターフライヤーはどのような乗り物なのか。結論から言うと、JCSIで示されたように、「お客様の期待値はさほど高くはないけれども、評価が高い」というものです。期待値が低いことについては、もっと改善しなければならない課題だと捉えています。しかし、だからこそ、我々のやっている理念やそれに基づく行動の結果が、お客様にとって、とても満足度が高いものとなっているのです。「さりげなく気を配ること」これが、私どもの基本になっています。言い方は悪いかもしれませんが、見え見えの、押しつけのホスピタリティを提供することは一切考えてはいません。たとえば、当社の場合はビジネス客で何度も飛行機に乗っている方が多いですから、アナウンスなども必要最低限にして迷惑のかからないようにしております。ある調査では、当社は「日本航空と比べて、CAが通路を行き来してお客様の様子を窺おうとする回数がとても少ない」という回答がありました。我々は、あえて行き来してお客様に煩わしさを感じさせることはしません。
ホスピタリティは予約をいただいた時点から搭乗して飛行機を降りられるまで一貫して提供するものとしています。まずは清掃・整理・整頓・身だしなみは当たり前のことです。それから、問合せについてはどんなスタッフに聞かれても同様に答えられるようにしております。また助けが必要となるお客様(障がいを持った方や小さなお子さんのいる方など)に対しては、搭乗手続きのカウンターに来られた時点から、到着空港での移動に至るまで、すぐに必要なモノ・ことを提供できるよう、支援する準備を整えております。これは、見えないところ・表現されない要望への配慮ですが、一方で表現されない要望へどう近づくかが大切だと考えております。お客様の表情・しぐさなどから察し、五感を研ぎ澄ましてご要望を知覚できるよう、教育を行っています。
「おもてなし」の人材育成
おもてなし教育の一例としては、客室乗務員に対しては、まず新入社員として入ってきたときに、経験の有無に問わず、当社の企業理念・ポリシーを叩き込む4日間の教育を行います。それから、養成教育として2カ月半座学をやります。この間、実際に飛行機に搭乗することになります。OJTは約27フライト、1か月ほとんど飛びっぱなしになります。これが他社に比べて最も違うところで、おそらくわが社のOJT期間は非常に長いのではないでしょうか。そして、スターフライヤーのサービスの10の基本(下記のおり)を書いたマニュアルを徹底的に理解してもらいます。その後テストを通過すると、階層別教育に移ります。1年ごとに座学の見直しをして再教育をします。それを超えると次のステップにいけるという仕組みです。資格もチーフパーサーになるなど、昇格していきます。このように「繰り返し教育」を経て、早い人で4年で国際線のパーサーになります。
STAR FLYER 10のBasics
MOTHER COMET
お客様へのサービスステップの実践
言葉遣い
身だしなみ
クレンリネスの保持
お客様へ提供すべき機内環境
お客様が言葉にされない願望やニーズの先読み
接遇者としての自己研研鑽
ブランドイメージの構築
STAR FLYERの客室乗務員であることへの「誇り」
経営側としてはからが一番理解してほしいところですが、難しいのです。は実際に経験してみなければ分かりません。それをどうやって教えていこうかと、常に試行錯誤しています。そして最終的に接遇者として「誇り」をもってもらうことがホスピタリティの流儀だと思っています。
ただし、マニュアルどおりにやってもらうことには問題点もあります。よく理解していても実際に起こるとそれが使えないことも多いですし、応用ができなくなってしまいます。ここはまだ改善の課題が残っています。例えば、ヘア・アイロンはリチウム電池が入っており、機内に持ち込めないので、持っているかどうか全顧客に聞くことになっているのですが、見てのとおりのお坊さんに対して、スタッフが「ヘア・アイロンをお持ちですか」と聞いてしまったということがありました。
お客様の満足度を高めるには
「どうやったら御社みたいに満足度を高められるのか」とよくご質問を受けるのですが、実は私どもは、お客様に何に満足していただけるかを追究しているかといえば、そうではありません。むしろ全く逆で、お客様が何を不満に感じているかを検証しております。CS担当者が定期的に報告する中で、もちろんお褒めの言葉をいただくことも多くありますが、我々にとって一番役に立つのは、お客様が不満足だった内容です。結論から言えば、不満足だったことをどうやったら満足いただけるように変えられるのかを追究するのです。
満足度は、「モノ」と「心」がマッチしてこそ高くなり、その先に感動が生まれます。モノや施設による満足をいかに心につなげるかが重要です。例えば我々の機材では、くつろぎの空間設定を設けています。各座席に電器プラグを置いています。それから、心からのおもてなしということで、タリーズのコーヒーをドリップしてお出ししています。これは、日本の航空会社で唯一です。カップにもこだわりを追求しています。余談ですが、高度1万メートルで飛んでいる気圧は非常に低いので、お湯が沸騰する温度が低く、おいしいコーヒーが飲めないという問題があったのですが、タリーズさんと一緒に考えて、良いものをつくりました。
こうした一つひとつの取組みの積み重ねで、お客様の満足度を高められるよう、ホスピタリティの精神で業務を行っております。まだまだ皆さんからの期待度は低いかもしれませんが、「モノ」と「心」の両方でお客様の期待に超えるサービスづくりに従事していきたいと思います。今後もぜひ、皆様の空の移動のお役に立てれば幸いです。
米原 愼一 氏・談
SPRINGシンポジウム in 九州(2013年11月14日開催) 講義ダイジェスト