2013年12月24日
~サービスイノベーションにダイバーシティの要素を~
不透明で不安定な時代に企業が持続的な成長を遂げていくためには、付加価値の高い新商品や新サービスを創造することが必要であり、あらゆる分野でイノベーションが不可欠になっている。
私はイノベーションとは、特定の優れた人のみが起こすものではなく、普通の人が日々の気づきを仕事に生かそうとする取り組みから起こるものだと考えている。
普通の人がイノベーティブなアイデアや考え方を身に付けるには、旅行(異文化)・趣味、育児、介護、家族、自己啓発、地域活動など、仕事以外の領域での経験が非常に大切だ。仕事は貴重な能力開発の機会だが、組織の一員である以上、本人が自由に選択することはできない。自身の意志で選択できる仕事以外の領域から様々な体験・経験をすることによって、多くの能力が育まれる可能性がある。
個人は複数のダイバーシティ(多様性)要素を包含しており、その組み合わせが異なることから独自の価値観が生まれる。その価値観に裏づけされた言葉や行動が周囲と異なる場合、問題視されることもあるが、「ものごとのとらえ方」「発想力」「着眼点」などの差は、新たな価値観や視点が投入されたととらえ、歓迎すべきだ。それが新たなサービスに進化する可能性につながるからだ。
多様な人材が力を発揮できるようにするためにはトップが継続的にダイバーシティの重要性を発信することが重要だ。特に日本的同質のマネジメントに慣れてしまった管理職に向けて、トップは意識改革を訴えなければならない。バラバラの個をまとめて組織の力とするには、現場の管理職がダイバーシティのマネジメントをきちんと行うことにつきる。
マネジメントには、全員に一定のレベルの仕事を要求するマネジメントと新しい仕事を創発するマネジメントの二つがある。特に後者のマネジメントでは、日頃はさえない部下がすばらしいアイデアを出すこともある。個人の意見をしっかり吸い上げて成果に結びつけるための合意形成力が管理職には特に求められる。
ダイバーシティの要素は、表層的でわかりやすい要素(国籍・年齢等)と深層的でわかりにくい要素(経験・ライフスタイル等)にわかれるが、ダイバーシティを認識する際には、より深層的でわかりにくい要素である「保有する知識や技能、人脈・ネットワーク、大切にしていること、家族の課題等」がとても重要な要素だ。
ダイバーシティ経営では、メンバーのそれらをお互いに尊敬し、お互いに認めて、生かしあうことが重要だ。多様な知識・技術・ノウハウ・経験が集まれば、思いもよらない考え方や気づきが起こり、新たな創造へとつながる。仕事のプロセスが変革されたり、今までにない商品・サービス・事業が創造されるなど、ビジネスの可能性が高まる。
いままでと同じメンバーであっても、メンバーのそうした側面を引き出すことができれば、それもダイバーシティといえる。外国人を採用することだけがダイバーシティではない。多様な人が集まることも重要だが、今いる職場のメンバーがより多様になることも重要だ。
企業側には、仕事からのみでなく、社員の遭遇するあらゆる機会を教育の場ととらえることを勧めたい。社員に対し、仕事以外の領域の生活を通じて成長することへの期待を伝え、多様な経験を応援する姿勢や、そこから育まれた力を職場で生かそうとする環境を企業側がもつべきだ。
社員側も、せっかくの経験をただの私事(わたくしごと)とするのではなく、病気で休職するような経験であっても「転んではただでは起きない」くらいの気持ちで、何か“お土産”をもって復帰すればよい。未知の分野やレベルの高い業務に挑戦し、今までにはなかった能力を開発することも必要だ。
これからの個人は中長期にわたるキャリアとライフのビジョンを持たなければならない。子育てや介護などによって、キャリアが一時、中断されることがあっても、また、スパイラルアップしていくことが大切だ。
サービス産業には優れた女性経営者が多いが、表に出る経営者が少ないので、結果的に女性のロールモデルになっていないことが多い。サービス産業生産性協議会で、点在しているそうしたすばらしい人材を発掘し、モデル化し、ネットワークの構築を支援することができれば、サービスイノベーションを起こす風土を醸成することにつながるだろう。
私は、持てる力や才能を社会で発揮できるための、個人に向けた、新たな仕組みづくりやキャリアサポートが必要だと考えている。そうした活動を通して、日本のあらゆる側面にイノベーションの可能性を広げていきたい。
河野 真理子 氏(サービス産業生産性協議会代表幹事)・談
生産性新聞2013年10月25日号「サービスイノベーション~今後の展望~」掲載