顧客満足とロイヤルティの関係
:業種比較の視点か
(SERVICE INNOVATION REPORT Vol.26 "Report JCSI"より)
JCSI調査では、顧客満足のほかにロイヤルティを計測しています。ロイヤルティとは、サービスの利用頻度を増やしたいか サービスをより幅広い目的で利用したいか サービスを利用し続けたいか 第一候補にするか、という4設問をもとにしています。本レポートでは顧客満足とロイヤルティの関係について分析し、業種別の特徴を考察します。
■1.業種別の顧客満足指数とロイヤルティ指数
各業種で、2019年度の企業・ブランド別の顧客満足指数(CSI) とロイヤルティ指数(LI)の平均値を求め、それぞれの最大・中央・最小値を可視化(図表1と図表2)してみると、CSIとLIの範囲が似た動きをしていることが分かります。例えば、エンタテインメント業種は、CSIとLIの範囲が他の業種よりも高い位置にあります。その一方で、携帯電話業種は、CSIとLIの範囲が他の業種よりも低い位置にあります。このように、CSIとLIは、互いに似た動きを示しているため、CSIとLIの間には相関関係があるようにみえます。実際に、CSIとLIの相関係数(※注1)を求めると、全業種の相関係数が0.6以上あるため、強い相関関係があることが分かりました。
■2.業種別により異なるCSIとLIの相関関係
一方、CSIとLIの相関の強さは、業種によって異なる可能性があります。39業種の相関係数を比較すると、最も相関係数が低い業種が教育サービスと近郊鉄道、最も高い業種が宅配便でした(図表3)。
教育サービス業種の顧客は、CSIが低いにも関わらず、LIが高い回答者がいることを示唆しています。教育サービスのように、顧客はサービス提供企業と深い関わりをもつ場合、他の企業のサービスを探したり、新たに関係を形成したりすることが負担になる可能性があります(参考資料参照)。また、業種の特徴として、受験や卒業などの理由で満足しても継続しない場合があります。これらが教育サービス業種のCSIとLIの相関関係が、他の業種よりも低かった理由かもしれません。近郊鉄道業種の場合、不満足でも、他の代替交通機関がない場合が多いことが理由として考えられます。このように、CSIとLIの相関関係の強さは、業種によって別の要因の影響を受けることで変化する可能性があります。
また、生命保険業種やクレジットカード業種では、各社のロイヤルティがばらついており、範囲が大きくなっています(図表2)。特にクレジットカード業種では、CSIの範囲よりもLIの範囲が大きいことが分かります。これまでのJCSI調査の傾向から、クレジットカード業種の下位企業のロイヤルティが顧客満足と比較すると低くなる傾向が分かっています。これは、ロイヤルティに対して顧客満足以外の要因が影響していることを示唆します。
クレジットカード業種の企業は、会員特典やそのステイタスの上昇による様々な恩恵を顧客に提供できるようなロイヤルティ・プログラムを企画・提供しています。このような場合、顧客はクレジットカード会社のサービスへの満足よりも、ロイヤルティ・プログラムを受けることを目的に利用し続けることが考えられます。
JCSI調査において、顧客満足とロイヤルティの間には、強い相関関係はありましたが、その程度には業種間や企業間で差がありました。この差は、ロイヤルティに対して顧客満足以外の要因が影響していると考えられます。したがって、顧客満足とロイヤルティの関係を注視しつつ、他にどのような要因が影響しているのではないかを考える必要があると言えるでしょう。
※注1:CSIとLIの間に、直線的な関係があるかを評価する指標です。この指標は、-1から1までの値をとります。絶対値0.5以上の相関係数は、強い相関関係にあるといえます。
[参考文献]
○小野譲司・小川孔輔(編著)(2021)JCSI(日本版顧客満足度指数)ガイドブック サービスエクセレンス『CSI 診断による顧客経験[CX]の可視化』, 生産性出版