2013年12月5日
富士通株式会社 インテグレーションサービス部門
戦略企画室長 柴崎 辰彦 氏
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「ものづくりからことづくりへ」 富士通は現在、企業向け・社会向けの大きなシステムをつくっている。そこで現在私は、システムエンジニアの戦略企画業務を担当しながら、サービスサイエンスに関して、多数学会で発表させていただいている。活動が多岐にわたる中、一橋大学名誉教授の野中先生と、「モノ」と「コト」という観点で議論を重ねてきた。
「コト」は、「体験や経験を売る行為」であり、そのイノベーションは、新しいビジネスモデルとなる。また、オープンでユーザー参加型であるのが特徴だ。わかりやすい例で言えば、Dysonのコードレス掃除機。商品(モノ)の説明に加えて、サイトの中でユーザーが独自の使い方を提案して共有できる仕組み(コト)を提供している。このように、製造業にとっては今後商品開発に「コトづくり」の発想が不可欠となってきている。
「いまなぜ『コトづくり』なのか」 背景は3つ。企業の変化、個人の変化、社会の変化である。それぞれが変化していく中で、各者の目的は何かを考えて商品設計していかなければならない。
企業の変化は、モノづくりに様々な視点が広がってきたこと。「オープン・サービス・イノベーション」「サービス・ドミナント・ロジック」「メイカーズムーブメント」「フリーミアム」「クラウドソーシング」などの考え方がある。例えば、「オープン・サービス・イノベーション」は、モノではなくてコトで考えようという姿勢で、新しい事業にお客様を参加させたり外部から技術を取り入れたりして、コ・クリエイション(共創)をしていく取り組みである。単なる協業ではなく、参画者が共通の目標(共通善)に則って事業を進める、新しいビジネスモデルである。結果として、自社事業が拡張する場合もあるし、外に事業を独立させることになる場合もあれば、ライセンスを他社に共有するなどの展開ができるようになることもある。
個人の変化は、新しいエクスペリエンスを求める、生活者起点の「デザイン思考」、価値観を自ら創造する、信頼できる企業から買うなど、消費動向が変わってきている「スペンドシフト」、働き手自身が意思をもって未来を選択する、情熱を傾けられる経験価値を求める「ワークシフト」などの動きが挙げられる。
社会の変化は、「超高齢化社会」の中で、高齢者に優しいコトづくりにモノを埋め込むようになってきたこと、「シェアの文化」の中でモノの所有でなく利用(=コト)するようになってきたこと、「サスティナブルな社会」としてLOHAS実践ニーズが増えたこと、「ソーシャルメディア」が進化してコトづくりを支える基盤ができたこと、などが挙げられる。
こういった背景の中で、製造業は全体的にサービス化しつつあり、競争力のあるプロダクトによってサービス価値を向上させるというパターンと、逆に様々なサービスによってプロダクトの価値向上を図るというパターンとをぐるぐる回すサイクルになっている。
「サービス業の進化」 一方で、サービス業はどう変化してきたか。現状の課題として、生産性の低さや賃金水準の低さ、中小規模のサービス業の活性化が遅れていることなどが指摘されており、サービス産業の進化が求められている。こういったところで、我々が提供するICTを活用したコトづくりによるサービス活性化が有効になってくるのではないか。たとえば、タクシー配車アプリを活用したタクシー業におけるサービス化(東京観光タクシー、JIN-TSU TAXI、キッズタクシーなど)などだ。
また、サービスの骨となる車・建機、地域、システム、人、建物など、プラットフォームに魅力がなければ、サービスも魅力が出ない。プラットフォームをどう強くするかが大事である。
「サービスに対する事前期待と品質」 ビジネスの成功のキーはお客様の満足だ。その満足度は、事前期待と実績評価の相対関係で決まる。事前期待よりも実際の評価が高ければ、リピート客が増えるし、事前期待よりも実際の評価が低ければ、お客様を失う。ゆえに、事前期待に応えることが、サービス向上につながるのである。
また、サービス品質については成果とプロセスに分けて、6つの品質があるといわれている。一流といわれる会社でも正確性や迅速性など成果品質を重視されるのが実情だが、お客様一人ひとりを大切にするには、“共感性や安心感、好印象”といったプロセス品質をもっと重視すべきだ。
「お客様のハートを掴む5つの法則」 インバウンド・マーケティグという理論を紹介したい。「お客様がわざわざ来てくれる」状態“Get Found!”をつくればビジネスになりますよ、という考えだ。やり方としては、次の法則のとおり。
法則1:話題性のあるコンテンツでお客様を囲い込む 法則2:お客様自身に宣伝してもらう 法則3:会社やお店の「ナカの人」を出す 法則4:お客様がわざわざ来る「場」を創る 法則5:大前提として誰にも負けないいいモノを創る
そのために、お客様の事前期待を理解し、事前期待をマネジメントすること、いわゆるサービスサイエンスを実践することが必要となる。事前期待を把握するには、ソーシャルメディアなどで過去の発言内容から読むことができる。そして、事前期待でお客様をセグメントに分類することポイントである。お客様が何を望んでいるのか深く理解し、基本は事前期待に応えることだ。また、事前期待が膨らみすぎているときや冷め切っているときは、お客様の離反につながるので、マネジメントが必要になってくるのだ・・・
(以上)
さらに詳しく知りたい方は、 『勝負は、お客様が買う前に決める!』 柴崎辰彦著/ダイヤモンド社 をお読みください。
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