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リーダーの声

2017年4月24日

九州旅客鉄道株式会社クルーズトレイン本部次長 仲 義雄 氏

「クルーズトレイン『ななつ星in九州』

 

 

2011年から当時社長の唐池、デザイナーの水戸岡先生と一緒にJR九州のクルーズトレイン「ななつ星」の開業、そして現在に至るまで担当させていただいております。今回、日本サービス大賞内閣総理大臣賞をいただきまして、九州のみんなが喜ぶことができた賞だと実感しております。これからもしっかりと誠実に謙虚に「ななつ星」を成長させていきたいと思っております。
 

 

 

 

手間をかけた仕事以外、感動は生まれない
これまで日本にない新たな鉄道の旅をつくる挑戦ということでJR九州は動きました。
JR九州グループの経営理念は「安全とサービスを基盤として九州、日本、そしてアジアの元気をつくる企業グループ」です。その中で大事な3つの行い、「誠実」、「成長と進化」、「地域を元気に」があります。
特に「誠実」という言葉には非常に力を込めております。「うそ偽りない真摯な姿で仕事をしましょう」。それは、ミスが出た時真摯に対策をとって対応しようというものです。もう一つは、効率的IT化のスピーディーな仕事だけではなく、仕事にはちゃんと「手間暇をかけなさい」ということです。手間をかけた仕事以外、感動は生まれないと考えております。JR九州にとって一番大事な姿勢です。
地域に基づくデザインと地域に根差した物語を詰め込んだ列車「SLあそBOY」や「或る列車」など、「乗り心地」や「乗って楽しい」に力を入れたデザイン&ストーリー列車を九州各地で走らせています。鹿児島の南方、指宿では龍宮伝説浦島太郎で町興しをされています。それをモチーフにした列車「指宿のたまて箱」は、地域の方々と一緒につくっていく列車として非常に人気になり、毎日運行して90%を超える乗車率をずっと維持しています。
そのような取り組みの中で生まれた「ななつ星」は、九州を知ってもらい、その循環で九州とJR九州の発展に繋がるという思いと、豪華列車を走らせたいと二十数年思っていた当時社長の唐池と、同じ時期に同じことを思っていらしたデザイナーの水戸岡鋭治先生が、実現しようと動き出したのがこの「ななつ星」事業の始まりです。
    

世界一のサービスをつくる
2012年5月27日の記者発表では、「日本で初めての豪華列車をつくります、日本一の列車をつくります」と書いていたシナリオを、唐池はその通り読みませんでした。
唐池が発表したのは、
「世界一の列車をつくります。そして世界一のサービスをつくります。」
海外のメディアもお呼びして200人近くの旅行関係者とメディアの皆様の前で突然発表しましたので、夜のニュースや翌日の新聞に「JR九州、世界一を目指す」と出てしまいました。
確信犯の唐池は、「日本一の列車なんて当たり前なんだ。世界一を目指す列車をつくりたい、そういう思いでやらないといけないんだ」と申しておりました。
当初は戸惑ったものの、この言葉があったからこそ、クルーたちはこれに夢を見て入ってきましたし、一流のサービスマンも九州地域の方々も、世界一のサービスを作るのに僕たちは何をしたらいいんだろう、と考えてくださるようになりました。
  

「新たな人生にめぐり逢う、旅。」
「ななつ星」の旅コンセプトは、「新たな人生にめぐり逢う、旅。」としています。
 1つ目は、お客様ご自身とのめぐり逢い。旅の間、風景をぼーっと見ていただいて、ご自身の人生を振り返り、旅が終わる頃には、これからの新しい自分の人生の目標や目的にめぐり逢える旅。
 2つ目は、パートナーとのめぐり逢い。ご同乗されるパートナーと列車という空間の中で一緒に過ごしていただくことで、新たな一面を発見したり、お2人のこれからの人生の目標にめぐり逢える旅。
 3つ目は、地域の方々、クルーとのめぐり逢いです。地元の方々との各地でのめぐり逢い。そして一緒に旅をするクルーと過ごすことで、家族や友達のような関係を築ける、そういうサービスをつくっていきたいと思っています。
   

乗車前に「ななつ星」の旅の7割が終わる
ななつ星は2コースあり、3泊4日(博多から九州を廻るコース)と、1泊2日(博多から北部九州を廻るコース)で運行しています。お部屋のタイプはスイートルームとデラックススイートルームの2タイプあり、デラックススイートの倍率が一番高くて100倍を超えています。
 そのような倍率の中、どのような方でも厳正に抽選します。当選された方には「ななつ星」に当選したという喜びを感じていただけるよう、他のツアーデスク陣も電話口で拍手するなどの演出でご連絡しています。当選された方には「ななつ星」の想いが詰まった季刊誌やお手紙をお送りするなど、旅の期待度を上げていきます。
出発の2カ月前になると、お伺い書というのをお送りします。お食事もアレルギーや食事量、持病で食べられない食材など、可能な限り対応します。リクエスト曲を聞くのも特徴です。「ななつ星」の旅の間、どこかでバイオリンとピアノの生演奏で、思い出の曲を聞いていただけるよう準備します。
実は、専任スタッフはお伺い書に書いていないことをたくさん聞いています。記念日であるとか、「ななつ星」の旅への思いとか、これまでのお客様の人生みたいなお話も聞いています。その中で、旅の中で奥様へお礼のお手紙を書かれませんかとか、一緒にお誕生日お祝いしましょうという提案をしています。それをクルーに全部引き継ぎ、旅の中で様々なサプライズを形にしていきます。このスタッフが得る情報があって初めて「ななつ星」の旅が完成することになります。こうした準備をお電話やメールで20~30回ほどやり取りをして当日を迎えます。
 出発の当日、お客様がラウンジ金星に来られたときに、この専任スタッフと初めて面会することになりますが、そのときにお土産やお手紙をいただいたり、ありがとうの言葉とともに抱き合ったり、いろんな光景が見られます。ここで、「ななつ星」の旅の70%ぐらいは終わっているのではないかと思っています。
 

30億円の額縁のような大窓
ご乗車されたお客様には、まず車両に驚いていただきます。「ななつ星」の車両は、外観は古代漆色・ロイヤルワインレッドの表面加工で、列車の中のデザインは、和と洋の融合で施されています。機関車1両・客車7両の合計8両編成になり、合計14室・最大定員30名です。機関車1号車と2号車が共用スペースのラウンジとダイニングになり、3号車~6号車まではスイートルームで全ての部屋でデザインが違っています。7号車が一番広い部屋で、デラックススイートと呼んでおりますが、1枚ガラスの展望スペースをひとり占めできるお部屋ということで一番人気になっています。
  

 

 

「ななつ星」の車両は30億円をかけていますが、車両内では、この額縁のような大窓をつくりたかったのです。ここからぼーっと眺めて、車窓を眺めていただくのが一番の贅沢です。その縁どられた窓から見る九州の景色、人々の普通に生活されている様子が1つの芸術作品のように見えて流れていく。これが一番贅沢な時間と空間だと考えています。

 人間国宝14代酒井田柿右衛門先生に装飾用洗面鉢の作製をお願いしましたら、ちょうど癌から立ち直られて、今から頑張ろうと公共のための仕事をやりたいと思っていたそうで、14室全て先生の洗面鉢が使われています。この作品が納品されてから1週間後に先生は亡くなられまして、本当に最後の作品になりました。こういう匠の想いというのも「ななつ星」の中に詰められております。
 

 

 

地域が一体となって応援
やはり旅の楽しみは食です。九州各地の料理人に乗り込んでいただいて、「ななつ星」の食を召し上がっていただきます。お客様が手間に感動していただけるよう、手間をかけてくださいと料理人の方々にお願いしております。
 そして、沿線各地で地域の方々からお出迎えをしてくださるのも「ななつ星」の旅の楽しみになっています。福岡県うきは市の山春保育所という保育園児たちは、運行開始から今までほぼ欠かさず「いってらっしゃい」のお見送りをしてくれています。運行開始から半年くらい経ってから、いつも見送ってくれる保育園があることに気付き保育園へ伺うと「これをずっと最初からやっていますよ」と。そこからクルーとの交流が始まり、今では保育園の前で列車を徐行させて、お互いの姿が見えると園児たちからも喜んでいただいています。
  

 

 

他にも、佐世保駅でのジャズ演奏のお出迎えがあったり、由布院では沿線にコスモスやヒマワリを植えていただいたり、駅の中に季節オブジェをつくり続けていただいたりしています。
 

「ななつ星」のサービスはどうあるべきか
旅を一緒にお供するのがクルーです。30名のクルーの半分は、JR九州の社外から来たメンバーですが、それぞれのサービスの道で非常に頑張ってきた方たちが集まってくれました。しかしそんなサービスのプロ集団でも、今まで学んだことは全部リセットしてもらい、自分自身の全人格でサービスをする形を考えました。それは、旅の中で一緒におもてなしをするときに、取り繕ったサービスではすぐに見透かされてしまうものだからです。その上で、1年間様々な研修生活を送ってもらい、「ななつ星」のサービスはどうあるべきかを考えてもらいました。
 お客様から「ななつ星」のサービスは一生懸命だねとよく言われます。一生懸命お客様のことを考えて四六時中動いてくれるクルーは本当に嬉しいとおっしゃっていただきます。私たちはできるだけ近いサービスをしようとお客様にどんどん話しかけます。日に日に打ち解けていき家族や友達のような関係になっていきます。旅の終わりごろになると、涙、涙にお別れをするというシーンも見られます。
 

 

 
 決して格好よいきれいなサービスではないですが、一生懸命なサービスを私たちはやっています。お客様からいただく感想をご紹介いたします。
 

 

  

 
最後に、「ななつ星」がどうしてこれだけ認知していただけるようになったのかとよく聞かれます。それは、世界一の列車、世界一のサービスを目指そうと唐池が大きな目標をつくり、そして牽引していった。それについていった関わる全ての皆さんの情熱がこの「ななつ星」という列車に込められているからこそ、乗っていただいた方々が感動していただいているのではないかと思っています。
 そして、企業理念の「誠実」、「成長と進化」、「地域を元気に」との一致というのも最近感じています。まさにそれを具現化したのがこの「ななつ星」だと考えています。
 九州をこれから発展させるために地域の皆様とこの列車を育てていきたいと思っています。

(「日本サービス大賞フォーラム」より)

 

※九州旅客鉄道株式会社のクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、第1回日本サ―ビス大賞内閣総理大臣賞を受賞されました。