受賞の観点
伝統を継承しながら顧客目線に立った現代的サービスを提供し、満足度で高評価を得る
提供サービス
長い伝統を誇る温泉地で旅館業を営む。600年弱の歴史をもつ老舗旅館の伝統を継承しながら、建物のリフォームやサービス改革などを行い、新しいコンセプトの旅館として人気を得ている。旅館にホテル的なサービススタイルを取り入れたり、本格的な個室料亭を備えるなど、従来の概念にこだわらない「もてなし」を提供している。
ハイ・サービスのポイント
同旅館の強みは、伝統を継承しながらも、現代的な快適さも楽しめるようなハード・ソフト面のリフォームにより、様々な客層・要望に合わせたサービスを確立し、顧客に提供している点にある。こうした従来のスタイルにこだわらない様々な試みによって、旅館としての独自性を高め、顧客に高い満足度を与えている。
- 宮城県白石市の鎌先温泉は1429年に開湯された伝統を誇り、同旅館も600年弱の歴史を持つ。社長の一條氏は20代目の当主として、2004年に就任した。
- 社長就任当初、初めて決算書と業績をチェックし、旅館の経営が深刻な状態にあることに気づいた。現社長の妻である若女将も、旅館の経営については素人だった。「素人の目線、顧客の目線」で、どうしたらもっと魅力的な旅館になるかと考え、既成概念にとらわれないアイデアを出した。二人でそれらのアイデアを一つひとつ実行し、様々な新しい要望に応えるための旅館の建て直しに取り組んでいった。
- 当時は本館が湯治客、別館が観光客と客層が分かれていたが、湯治客の減少につれて経営も悪化していた。集客の目玉となるよう、大正時代の趣のあるシンボル的存在の本館を、伝統的な外観は残したまま、内部に個室料亭「匠庵」をつくり改装した。
- 割烹出身の料理長のもと、地元仙台のA5ランクのブランド牛肉や、自家農園でとれる野菜など、食材にもこだわった本格的な料理を提供した。
- 2008年7月に別館を総リニューアルし、ホテルスタイルを取り入れた客室やバー、様々なリラクゼーションサービスを提供する現代的な快適さを備えた空間とした。露天風呂付きスイートや、モダン和洋室、和室など、好みや予算によって選べる7種類の客室を用意し、同旅館は「古くて新しい宿」として生まれ変わった。
- 旅館のリニューアルに際して、最も苦心したのは、新しいサービススタイルに移行するために、従業員のコンセンサスを得ることだった。従来のやり方にとらわれて、新しいスタイルを受け入れることができない従業員も多くいた。古くからの従業員を解雇し、新しい従業員を採用することも考えたが、湯主一條に愛着を持つ従業員を使い続けることを選択し、何度も従業員とぶつかり合いながらコミュニケーションを深め、改革へのコンセンサスを得ていった。また、従業員の理解を得るために、社長も若女将も率先して現場に立った。従業員の新しいスキルはOJTで教育した。
- 現社長の代になるまで、社訓や経営理念はなく、業務をこなしていくだけの日々であった。そこで新たに経営理念を、「顧客に喜ばれること」、「従業員が働くことに満足すること」、「600年続く一條のブランドを継承すること」として、目標を明確化した。
- 顧客が同旅館での「物語の主人公となる」ような体験ができるように、従業員全員がその「舞台作り」を心がけた。伝統的な建物も演出の一部と考え、その来歴を同旅館の「物語」の一部として顧客に伝えることに努めている。それが旅館の価値につながると考えたからである。
- 他店の新しいサービスや料理を体験することも大切であるとして、社員旅行で新しいレストランなどを訪れている。提供されるサービスを体験し、厨房見学なども行う。
- 集客については、インターネットや雑誌による情報発信と、顧客からの電話への対応を重視している。顧客の関心を得るページづくりに努め、積極的な情報発信を行い、顧客からの電話には厨房担当も含め従業員全員が対応する。そのためのコミュニケーション能力向上の研修を、従業員全員に実施している。
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