受賞の観点
こだわりのサービスで、自らを地域の観光資源に育てた旅館
提供サービス
1968年創業の老舗旅館。2004年に内装の全面リニューアルを行い、現在では古風な外観と洗練された設備を兼ね備え、客室数6室での行き届いたサービスを提供している。
ハイ・サービスのポイント
宿泊客に宿を楽しんでもらうために旅館のハード面とソフト面を革新し、デザイナーズ旅館という空間力に加え、地域の食材、家族経営の温もりをコンセプトにしたサービス展開を図り、旅館業と食品事業の両立に成功している。
- 山口県阿知須温泉郷には、かつては10軒近い宿泊施設があり賑わったが、バブル崩壊後、客層が団体客から個人客へと移り変わったことで客足が途絶え、近隣はさびれた。同館も施設の老朽化が進んだことで廃業を考えたが、先代の孫である現社長が三代目社長兼番頭として旅館を引き継ぎ、リニューアルオープンに取り組んだ。リニューアルに際しては、客室数というハード面重視では景気変動の影響を受けやすく経営が不安定になることを経営課題としてとらえ、宿泊客に宿を楽しんでもらうソフト面重視のサービス展開を事業方針とした。
- デザイナーの辻村久信氏と組んで、和にこだわり、「宿泊客にくつろぎ、楽しんでもらえる旅館」をコンセプトにリニューアル。広い客室にロビーとバーを設け、ゆっくり過ごしてもらえる空間を充実させるとともに、夜の光の力など照明の演出、音の演出など五感に響くこだわりの演出を施した。また料金体系を従来の一室5,000円台から3倍に上げ、山口県で有名なフグを主力商品として、客単価の向上を図った。
- オープンから半年間は雑誌に掲載されることもなく、集客方法が大きな課題となったため、パブリシティー活動に取り組んだ結果、雑誌の取材やテレビ出演が決まり、1年で全国数10社の出版社から取材を受けるようになった。
- 自社ホームページでは、家族の話、写真などを入れ、人間味を出していくことにより、家族経営の温もりに共感してくれる利用者のみを受け付けることにより、子供の成長を楽しみにしてくれる宿泊客やスタッフのファンとして宿泊してくれる顧客、リピーターが増えた。
- 宿泊客から、食事の際に出す醤油を「持って帰りたい」という要望が出始めたため、地場の醸造家とともに商品化に取り組む。当初は旅館の土産として扱っていたが、リピーターから大阪圏の有名百貨店のバイヤーの紹介を受け、販路を拡大。また味覚だけではなく、商品形状、ネーミング、パッケージデザインにもこだわり、新商品を次々と開発。その結果、市場投入するほとんど全ての商品がヒット商品となり、東京や福岡の有名デパートを中心に、売り上げが拡大。売上高構成比も「旅館業50:食品事業50」となり、事業の大きな柱に育った。これによって景気変動の影響を受けやすい旅館業の売上高を食品事業がカバーするというバランスの良い収益構造が確立されている。
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