2015年10月15日
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CS向上やサービス強化に取り組む企業が増えています。しかしCSやサービスは目に見えないので、一体何から手を付けたら良いのか分からない。そこでサービスサイエンスでは、「サービス」を分類、分解、モデル化することで、その本質や努力のポイントを明らかにしています。
前回は、サービスの全体像を掴むために、世の中のサービスをメニューの観点で「分類」してみました。すると、たった21種類の基本サービスメニューに分類でき、更にそれらは3つの大分類に集約でき、意外とシンプルに整理ができました。そしてサービスメニューの21分類を活用すると、サービスメニューの観点で他社との違いを明らかにできて、差別化のポイントを見出すことができました。
そこで今回は、サービスメニューの3大分類に着目をしてみたいと思います。これら3大分類を重ねてみると、とても興味深い気づきが得られましたので、それに触れながら、サービスの付加価値向上のヒントを掴んでみたいと思います。
サービスメニューの3大分類を重ねてみる
前回、サービスメニューは3つの大分類「モノ提供サービス」「情報提供サービス」「快適提供サービス」に集約されることが分かりました。これらを重ねてみると、図のようになります。
この図に、分かりやすいように「農業」を当てはめてみました。
・一般的な農家は作った野菜を農協に納めて収入を得ています。これは、野菜というモノを提供するサービスという見方ができるので、サービスメニュー3大分類の中の、「モノ提供サービス」といえます。
・都会近郊の農家では、秋になると旅行会社とタイアップして芋掘りツアーを企画します。これは、芋という「モノ提供サービス」の要素に、芋堀りの楽しさという「快適提供サービス」の要素が加わったサービスだといえます。
・続いては最近流行りの、季節の野菜便。無農薬有機野菜が季節ごとに産地直送で自宅に送られてくるサービスです。これは、野菜という「モノ提供サービス」の要素に、無農薬からくる安心・安全や、有機野菜のおいしさ、今回届く野菜を楽しみに待つワクワク感といった「快適提供サービス」の要素が加わっています。更には、最近では届いた段ボールを開けると、農家の方の顔写真付きのお手紙や、珍しい野菜を美味しく食べるためのレシピなどが入っています。つまり「情報提供サービス」の要素も上手に取り組んでいるといえます。このように、季節の野菜便は「モノ提供サービス」「情報提供サービス」「快適提供サービス」の3つの要素をバランスよく取り入れたサービスです。
その結果、あるデータでは、純粋な「モノ提供サービス」をしている農家の場合と、季節の野菜便に取り組んでいる農家とで、大根1本当たりの農家の収入が約10倍違うと言われています。つまり、「モノ提供サービス」「情報提供サービス」「快適提供サービス」の3つの要素をバランスよく取り組むことで、付加価値を高めることができるのです。
他の産業でも、3つのバランスが大事
今回の例は農業でしたが、他にも3つのサービス要素をバランスよく取り入れている産業(携帯電話・ゲーム機・自動車など)は、どれも今元気の良い産業ばかりです。
他にも例えば、小売サービスでは、店舗に製品を並べるだけでなく、製品を実際に使って楽しめるプレイルームやカフェスペースなどを提供することで、購入前に製品の魅力を実感できる工夫をしているケースがあります。これは、「モノ提供サービス」に「快適提供サービス(楽しさ提供)」を加えたサービス強化と見ることができます。
また、製品を販売するのではなくレンタル化する取り組みは、「モノ提供サービス」よりも「快適提供サービス」の方に価値をシフトするサービス強化と捉えることができます。もちろんこのとき、レンタル製品を活用した付加価値情報の発信など「情報提供サービス」が極めて重要になります。
このように、様々な産業において、たった3つの視点でサービスビジネスを見つめ直すだけでも、十分に価値ある気づきが得られます。サービスメニューの3大分類「モノ提供サービス」「情報提供サービス」「快適提供サービス」を自社に照らし合わせてみて、バランスの悪い部分が見つかれば、そこに付加価値向上のチャンスが見つかるのではないでしょうか。
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己 (Takumi Matsui) 松井サービスコンサルティング 代表 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト |
サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。 |