経営者の声

2015年10月16日

株式会社ジェイティービー 代表取締役会長 田川 博己 氏

「新たな旅行業への挑戦」

(サービス産業生産性協議会 幹事)

 
  

JTBは旅行業ですが、店頭で旅行商品販売や、旅行先の添乗員、というのが皆さんのイメージだと思います。実は、この仕事は全体の2~3割で、見えない仕事が7割位あります。見えない仕事をいかに価値化して仕事をしていくかが、旅行業のイノベーションです。今回は私どもの成長戦略についてお話します。
2014年の10月でインバウンド(訪日外国人)が1000万人を超えました。2020年のオリンピックまでにイン・アウト4000万人を政府は目指しています。2014年は海外旅行渡航化の自由から50年、1964年の東京オリンピックから50年、東海道新幹線も50年、モノレールも50年、1つの大きなインフラの節目に当たっている年です。

歴史から学べること
JTBは1912年(明治45年)に創立し100周年になります。これから考える日本のインバウンド・アウトウンドは、今から100年前の戦前戦中戦後を通じて、その時代の先達が考えた事にかなり似ていると思います。元々は外人客を世界中から誘致して、国益に貢献するという明治政府の狙いからつくられた組織なので、政府観光業に当たります。戦中はユダヤ難民避難の斡旋、戦後は復員兵の輸送、集団就職の輸送斡旋など、どんな時代でも人を動かす仕事をしてきました。これからも人を動かすという現在の戦略は歴史に学ぶところがたくさんあります。

旅行業のビジネスモードの変遷
戦後60年代初頭はチケットを売り、次に「ルック」、「エース」といった旅行のパッケージ商品を発売しました。そして現在はパッケージよりもお客様をいかにサポートするかが重要な仕事です。サービス業と言われているホスピタリティ産業の中で旅行業は特殊です。商品を売るより、商品の裏側にあるものを売るという時代になりました。2006年の4月1日に、北海道から沖縄に至るまで『地域密着』を掲げた地域会社に分社化にしました。これがJTBの新しいビジネスモデルを作る形になった1つの背景です。東京や大阪の大市場だけのニーズで商品を作ると、地域が疲弊する事に、JTBは長い歴史の中で学ぶ事があります。それぞれの地域に根ざした着地型のマネジメントをするのが、分社化した最大の理由です。マーケット特化型も、法人、国際、全国一律でするもの、全国会社と地域会社を縦軸と横軸に分けました。

  

日本の観光を取り巻くマクロ環境
今、日本にインバウンドが増えているのは、ビザの規制緩和も含め円安効果も大きく、近隣アジアの経済の高成長による影響もあります。一方、国内は人口減少に加え、旅行ニーズの多様化、旅の価値観の変化、情報通信網の発達により、お客様の購買行動がネット予約に推移するなど経済的、技術的、社会的な変化が起こっています。政治的では全省庁を挙げた観光政策の加速、オープンスカイ、空港民営化、観光振興による地域活性化が全国の自治体で推進できるようにするなど課題があります。今後は受け皿となる観光地の整備や交通政策など地域としても地域の生活エリアでの交流と人の触れ合いを作ることが非常に大事です。

旅行業の現状と課題
少子高齢化の中で国内旅行は減少し、これまでの名所や旧跡など観光地へ行くのが目的の「非日常型」から、テーマや地域との交流、リーズナブルな自由型の「異日常型」へと、団体から個人へ、地域の良さを再発見する旅へと変化しています。またSARS、インフルエンザ、エボラ熱などの感染症に対する措置、社会環境・経済環境変化の影響を受けにくい、新しい形のビジネスモデルを作り安定させないといけません。

交流文化事業として推進
旅行は目的ではなく手段、旅行会社はコーディネーターではなくビジネスパートナーとして取り組みます。何しにハワイに行くのか何しにヨーロッパに行くのか、という時代になりました。総合旅行業と言われている旧来の旅行業ではうまくいかないので、「交流文化事業」という事業論を展開する事にしました。この事業論は、JTBならではの商品、サービス、情報及び仕組みを提供して、地球を舞台に、あらゆる交流を創造することに最大の力点を置いた事業を旅行業としてやっていくための成長戦略なのです。着地型旅行、産業観光。メディカルツーリズム、エコツーリズム、そしてボランティアツアーなど日本だけではなく地球を舞台に展開していくことです。

DMC戦略と“旅の力”で活性化
イベントを呼び地域を活性化するという旅行業の形としてDMC(デスティネーション マネジメント カンパニー)がメインとなっていきます。私達が目指すモデルというのは、地域の方と一緒になって地域資源の魅力を再発見し、眠っている宝に磨きをかけ、日本全国や世界各国から集客を促す。そして地域の経済、地域の社会を活性化する。それを継続的に行うのが旅行業のイノベーションDMCの意味です。同時に解決をしてきたのは社内的にCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)をやってきました。観光地開発や地域開発です。また、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)で企業の体質を変えようとしています。2011年の1月にマイケルポーターが発案した概念で、この実践をして、企業の利益を向上しながら社会への活動の解決をし商品開発をしていく事です。

旅の5つの力の活用
「旅の力」には5つ必要なものがあります。
・「文化の力」:地域の文化を、新たに文化財・観光コンテンツにします。
・「交流の力」:地域振興・街おこしに取組む地域との交流を生み出して地元企業や商店街とパートナーシップを結び着地型パッケージ商品にします。
・「健康の力」:各地でイベントなどが開催され日常からの離脱による新たな刺激や感動、遊・快・楽・癒しなどを通じ、からだやこころの活力を得、再創造へのエネルギーを充たしていきます。
・「教育の力」:旅による自然や人とのふれあいを通し、異文化への理解、やさしさや思いやり、家族の絆を深めるなど、人間形成の機会を広げます。
・「経済の力」:旅行・観光産業の発展による雇用の拡大、地域や国の振興、貧困の削減、環境の整備・保全など、幅広い貢献ができ、文化の力、交流の力、健康の力、教育の力の4つの力を活用することで経済の力とつながっています。
 自分の業態業種から考えるとなかなか答えが出ませんが、自分自身が旅人だと思うといいアイディアが浮かびます。ただし実行するのは相当な人材力がないと出来ません。

 

優れた人材を作る
DMC戦略を推進するには、送客と集客による双方向の交流人口を生み出すハイブリッド型旅行会社を担う人材を育成しなければならないと考え、教育機関を作りました。ここで徹底的に教育を行います。マネジメントする人材、プロデュースする人間、両方必要です。最終的にはDMCの経営人材をトップに据えたいと考えています。そのためには相当な知力が必要で、現場力と言う従来の発想だけではなく、異業種の事、交通政策、農業問題、教育本体、あらゆる事に興味がないとなかなか出来ない事です。多様化経営者がこれから必要だと思います。この流れは短期ではなく、10~15年のスパンが必要です。分社化してちょうど来年が10年、1つの節目を迎える時代になりました。

2020年へのビジョン
JTBは2020年ビジョンを持っており、アジアで1に、確固たる地位を築いていきたいと考えています。現在世界で5、6番目のランクにいますが、世界トップランクで頑張りたいと考えております。そのためには、単なるチケットを販売する、パッケージを作るだけではなく、素材やモノを開発する力を会社の中で持たないといけないと思います。これが成長戦略の大きな課題です。人材像として、成長と発展をいつも頭の中に入れています。旅行業のイノベーション、まだまだ現在進行形です。今後も皆さんと意見交換していきたいと思います。

 
 
(「SPRINGシンポジウム2014 in高松」にて)