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リーダーの声

2014年3月25日

株式会社近鉄百貨店 執行役員 新本店準備本部長 尾原 謙治 氏

「あべのハルカスに誕生する新たな百貨店モデル」

皆さま、こんにちは。近鉄百貨店の尾原と申します。先日3月7日に大阪・阿倍野の地に「あべのハルカス」という新しいランドマークができました。本日は、それに関わる近鉄百貨店の開発の概要と、店づくりについてご披露したいと思います。
今回の開発の背景には、この10年来、JRさんが流通事業に進出したことと、建築基準の改正による耐震対応の必要が生じたことを機に、全国各地での駅立地での新たな百貨店が進出する中、それを迎え撃つ形で既存百貨店の増床というような動きがありました。その最後の大都市立地であるJR大阪・梅田の地に三越伊勢丹さんが進出するのを受ける形で在阪各百貨店が増床し、建て替えをしていったといういわゆる大阪2011年問題がありました。この流れにおいて最後の開発となるのが、当社のあべのハルカスにおける開発となっております。
 
今回ご多聞に漏れず、当社におきましても旧店舗の老朽化により、耐震工事を余儀なくされておりまして、近鉄百貨店の建て替えを今から8年前に検討しておりました。すでにJRの大阪駅への三越の出店が決まっており、それを迎えうつ形で、キタ・ミナミの各百貨店が増床する計画を発表する中、当社にとしても単に建て替え・リニューアルするだけでは他社に打ち勝てないということで、阿倍野・天王寺エリアに不足していた街機能を取り込む形で、複合ターミナルビルをつくり、そこの核店舗として百貨店を増床するという計画が判断されたのが、今から7年前でございます。
 
その後、航空法の改正によりまして、阿倍野地区のこのハルカスが位置している場所が、たまたま高さ制限がなくなったことから、もともと270メートルくらいの高さであったビル建設計画を、日本一の高さの300メートルにすることに変更決定し、開発が進んだ次第でございます。
 
 
あべのハルカスの全体計画概要
「あべのハルカス」の施設構成は、低層階から近鉄・大阪阿部野橋駅、あべのハルカス近鉄本店、美術館、オフィス、大阪マリオット都ホテル、展望台という複合ターミナルビルです。昨年6月13日に、あべのハルカス近鉄本店タワー館部分が先行オープンし、このたび3月7日に全施設がグランドオープンに至りました。総事業費1300億円、年度想定来館者約4740万人、2014年度の売上高目標(取扱高)は約1530億円の事業計画でございます。16階がハブフロアとなり、そこからオフィス、ホテル、展望台へと行けるつくりになっています。もともと阿倍野エリアにオフィスが少なかったこともあり、順調にオフィスフロアは入居が決まり、現在9割程度の入居率になっております。単に企業が入るではなく、来店型のオフィスを様々導入しております。在阪の4大学のキャンパス、金融フロア、オフィスを支えるコンビニなどの利便施設や近鉄が経営する保育所等も入っております。さらに特徴的なのがメディカルフロアです。大阪市立大学附属病院の先端予防医療センターを中心に導入され、13の診療科目が入ります。テナントビル内の医療施設としては日本最大級のメディカルフロアが実現することになりました。海外からのメディカルツアーも今後誘致をしていく計画でございます。ホテルは関西初出店のマリオット、と近鉄グループの都ホテルのダブルネームで、「大阪マリオット都ホテル」として世界水準のホスピタルティと日本のおもてなしを提供いたします。特にマリオットについては、海外の組織顧客化が優れたホテルでして、海外客を全体の3割くらい見込んでおります。
 
また、今回の目玉は何と言いましても、展望台です。高さは東京スカイツリーの第一展望台とほぼ同じですが、大阪の地においては山があり海があり、非常に眺望の豊かな展望台ということで、すでにオープン以来、来場者の方には大変感動していただいております。58階~60階からなる3層構造で、60階は360度ガラス張りの回廊式の展望台となっております。西は明石海峡大橋、淡路島、六甲山系、東は京都タワーや比叡山、北のほうには生駒山系が見え、起伏に富んだ景色を体感できます。また、吹き抜け構造で58階には外気を感じていただける野外広場があります。先般こちらでファッションショーをしたように、様々なイベントを開催できる構造となっており、滞留時間がしっかり取れる展望台になっております。
 
16階には近鉄が直営で展開する「あべのハルカス美術館」が新設されます。こちらは3つのコンセプトがあります。「誰もが気軽に芸術・文化を体験し、楽しめる都市型美術館」「国宝や重要文化財の展示も可能な本格的美術館」で、「日本・東洋美術、西洋美術、現在アートまで多彩な展覧会を開催」します。常設展はなしで、企画展を多彩にまわす運営方法をとります。3月22日からのこけら落としでは、東大寺展を開催します。全国でも数少ない、20時まで営業する美術館となります。
 
 
あべのハルカス近鉄本店のご紹介・百貨店低迷からの再生に向けて
このような様々な都市機能を包含した新しいビルに、核店舗として近鉄百貨店が入ることになります。従来の百貨店の枠を超えた商業施設であるということと、グループの基幹店であることの象徴として、「あべのハルカス近鉄本店」と名称変更をしてスタートしました。この開発の前提となるところをお話しさせていただきます。
 
百貨店は、現状、小売業態間の競合で非常に苦戦しております。バブル崩壊前の90年代前半が売上高のピークでしたが、約9兆5千億円くらいの規模が、昨今では6兆円台となり、65%くらいの売り上げに落ちている状況です。一方、ショッピングモールやコンビニエンスストアといったような流通業態の売り上げは伸びておりまして、いわゆる業態間の中で百貨店のポジションが段々と低下しています。なぜ百貨店が低迷してきたのか・・・ポイントはいくつかあります。まず、百貨店はフルライン・フルターゲットによるワンストップショッピング可能な業態でしたが、効率を追求した結果、商品領域が狭まり、高級化・中高年齢路線への客層の過度の絞り込みのため、フルライン・フルターゲットの位置づけを失ってきてしまったことがあります。また、従前は一日楽しめるような時間消費型の小売業でありましたが、大型ショッピングセンターの台頭により、休みの日に一日過ごす場所が百貨店からショッピングモールに移ってしまいました。そして、駅ビル・ファッションビルができたことにより、若い人たちの支持を失い、百貨店をご利用いただくのは40代以上の方に狭まってしまったことがあります。都心の高コストな立地で人の手間をかけた高コストでオペレーションしてきたゆえに、衣料品を中心とした利幅のとれる商材に絞り込んできたことが、顧客の離反の原因だと考えております。
 
そのような反省のもと、今回は百貨店の業態価値を取り戻すということを目的に、お客様にとっての百貨店の顧客価値を再構築したいというところからスタートしました。つまり、生活者の「暮らし」を視点に、どのように役に立てるか、或いは利用していただける施設になるかを見直しました。そのような前提で、以下の3つの方針を掲げました。
 
「阿倍野新本店の基本戦略」
百貨店事業モデルのイノベーションによる顧客価値の再構築
―生活者の暮らし視点を軸とした新しい商業施設づくり―
1.立地創造(集客方法のイノベーション)
街づくり視点で、すべてが揃う「あべのワンストップ商業エリア」
2.業態創造(店づくりのイノベーション)
様々な業態の得意分野を生かした新しい形態の都市型商業施設の構築
3.ビジネスモデル創造(運営手法のイノベーション)
百貨店型運営とデベロッパー型運営の最適な組み合わせによる収益
 
このような方針に基づき、21世紀に通用する新しい百貨店をつくっていきたいという思いで開発に取り組みました。商圏エリアの皆さまの行き場所となるような、なくてはならない存在になり、誰もが誰とでも、買い物目的でなくても楽しんでいただける「暮らしのランドマーク」としての店づくりをすすめてまいりました。
当社の商圏エリアには約630万人くらいの人たちがいますが、この人たちにしっかりと利用していただけるような施設になりたいと思います。加えて、観光目的で海外からも含めて広域から来ていただけるような場所にもなることを含めて考えてきました。そこで、ストアコンセプトを「モノ・コト・ヒトとの出会いが暮らしを彩る『街のような場』」としました。街というのは、様々な人が集まり、イベントあり、人と人との出会いの場となることがたくさんあります。この百貨店も従来のような物販の場だけでなく、暮らしの第三の場として来ていただけるような場所にしたいと考えております。そうして、改めてお客様層の幅を広げる戦略を立てました。
 
 
ストアコンセプトの実現に向けて
このストアコンセプトを実現するために、2つの戦略の柱を立てました。一つは、「フルターゲットストア化」です。従来の取引先の枠にとらわれずに、ショッピングモールなどで展開されている専門店を取引先に取り込むことにより、客層を広げ商品領域を拡大します。もう一つは、「時間消費型ストア化」です。今回、飲食店を大幅に拡大し、店全体の4分の1を非物販店として、滞在型機能を充実させました。このように、改めて百貨店取引形態とデベロッパーの商業形態を取り入れることにより、ローコストの運営で、百貨店・専門店・コミュニティという業態融合型の新しいビジネスモデルを構築しました。
 
この考え方をストアデザイン面にもしっかり落とし込むために、間宮吉彦さんにデザイン監修をしていただきました。大阪の堀江や南船場の街づくりに関与されてきた方です。例えば、タワー館とウイング館という2つの館の中心部にある吹抜け空間を利用し人が集まる広場をつくり、街に必要な6つの要素を店内各所に点在させることにより、街のような開かれた商業施設空間を作り出しています。
 
今回、高さ日本一の商業ビルで日本一の売り場面積の百貨店となったのですが、もう一つの日本一というキーワードで、「滞在時間日本一」を目指した店づくりを進めてまいりました。従前の平均滞在時間は70分でしたが、オープン後は平均2時間滞在していただけることを目指しております。そのための空間づくりとして、二つの仕掛けを考えました。仕掛けその1は「にぎわいコミュニティ」その2は「五感アメニティ」です。
 
「にぎわいコミュニティ」については、まず象徴的なランドマークとなる空間を3つ設けています。2階にある4層吹き抜けの「ウエルカムガレリア」、7階にある鳥や川など自然の音が流れるゆったりした空間「森の広場」、10階にある3200平米あり様々なイベントが行える「空の広場」です。また、時間消費型の施設を導入しています。演劇事業を行える近鉄アート館や、映画や落語などに使えるSPACE9、ウイング館屋上にあるあべのハルカスファーム、お子さんの遊具施設であるスウェーデントリムパークなどです。それから、「にぎわいコミュニティ」のもう一つの目玉としては、「街ステーション」というスペースを全館8箇所に設けております。どういうものかというと、地域のNPO法人の方に場を提供して色々な活動をしていただいている「縁活」と、我々が発信する暮らしの情報イベント「コトラボ」をおこない、落語の寄席を設けたり、カラー診断アドバイスを実施したり、高校生の演奏会などの展開をしております。
 
「五感アメニティ」については、何と言いましても今回は飲食スペースを中心とした4500席の休憩スペースをしっかりと取ったことがポイントです。これは日本の商業施設内では最大のものでございます。
 
サロンスペースとして女性だけのラウンジや外商のお客様のサロンなども充実させています。トイレスペースについては、音楽・環境などを工夫しております。また、BGMやアロマなども新しい試みとしてやっておりまして、館内BGMは有線と組んでフロアごとに曲調を変えたり、「情熱大陸」でも有名な窪田等さんにナレーションをお願いし、館内放送を流しております。開店・閉店の音楽も刷新し、各レストスペースでは五感で楽しんでいただけるアロマの香りを提供しております。 
  
 
おわりに
このような滞在時間をしっかりと取っていただけるような試みをすることにより、年間来場者数を4500万人、年間取扱額を1450億円に伸ばしていこうと取り組んでおります。関西大学の宮本教授が色々な経済効果について発表されていますが、あべのハルカスオープンによる経済波及効果は初年度約5000億円と見込まれております。これは、東京スカイツリーをも上回るものになっております。お陰様でオープン以来、様々な層のお客様にご来場いただいております。我々のこの店づくりが、新しい時代に向けての最新の施設が出来たと思っておりますので、これから商品・サービス・オペレーション等にさらに磨きをかけ、永く商圏の皆さまに支持される店をつくっていきたいと思っております。そして、関西経済の再生の一助に寄与できればと思っております。
 
ご清聴、ありがとうございました。
 
(以上) 
 
 
尾原謙治氏・談 
SPRINGシンポジウム in 関西(2014312日開催) 講演録
 
 
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