SPRING幹事より

2014年2月25日

株式会社公文教育研究会 代表取締役社長 角田 秋生 氏

~理念の浸透、交流促進を重視~

 

当社のサービスイノベーションは、学習者の学習効果を高めていく取り組みそのものから生まれる。教材をより良いものに改訂すること、指導者が一人一人の子どもに合わせて課題を提供すること、世界中から集めた良い指導事例を共有すること、指導者や社員の学習の場を継続的に設けることがイノベーションにつながる。

公文式教育法は、学校外学習、「個人別」「自学自習」による学習、基礎学力(読み・書き・計算)を育む学習―の三つを特徴とし、教室に子どもが通うという形が中心だが、世代を越えた広がりや教室以外での広がりを見せている。手書き文字の上達を支援する書写教室では、「心」を伝える手書き文字の良さ、幼児から高齢者まで年齢を問わず学ぶことのすばらしさを多くの人に伝えている。0~3歳の子どもを持つ親子のための新しい教育サービスとして「Baby Kumon」の提供も始めた。絵本や歌のCDなどの教材を通じて、自宅で親子の言葉のやりとりを促進し、親子のきずなを育む。月1回、教室で子育ての相談を行っている。

くもん学習療法センターでは、認知症の改善を図る「学習療法」や、認知症予防のための「脳の健康教室」を展開している。学習療法は認知症の高齢者が音読と簡単な計算を支援者とコミュニケーションをとりながら学習する療法だ。導入した高齢者介護施設からは、利用者の「表情が明るくなる」「意欲的になる」などの効果が表れ、スタッフのモチベーションの向上や離職率の低下などにもつながったと、喜ばれている。ある障害者就労移行支援施設では、毎日、国語と算数・数学の時間を設けるなど、公文式学習を支援プログラムの中心に据えることで、就労実績が大きく向上している。

基礎学力の向上や専門教育への円滑な移行を目的とした公文式による大学向け教育サービスも伸びている。海外での取り組みもイノベーションを加速させている。世界に六つある地域本社では年に1回、指導者を集めた研究大会を実施し、研究成果の発表や最新の指導事例の共有を行っている。かつて日本で起こったことと同じようなことが海外で起こることも多く、55年に及ぶ日本の課題解決の経験や知恵を海外に伝授できる。教材開発などの職種ごとに世界規模で担当者が一堂に会する会議も定期的に行い、公文の仕事のやり方を確認するとともに理念や価値観の共有をはかっている。

最近は、学習者にとってやさしすぎることもなく、難しすぎることもない、「ちょうど」という概念の海外への浸透に力を入れている。「ちょうど」の概念は、非常に数値化しにくく、伝達しにくい暗黙知の一つだが、日本本社の30歳前後の社員を他の地域本社に1年間派遣し、教室を訪問する際のものの見方など、日本の知恵や経験を地域本社の社員に1対1で伝授する、グローバル規模のメンター制度を導入することで、概念の共有化をはかっている。日本人社員の成長にもつながっている。

我々の事業活動の8割は理念・価値観の浸透活動といえる。「ちょうど」「自学自習」「個人別」などの理念を具現化しているのが教材であり、教室であり、指導だ。当社の社員にとって、教室に行くことは重要な意味を持つ。教室に行って実際の指導を見ると、子どもに「ちょうど」ではない分量を与えたときの反応はどうか、子どもが一心不乱に取り組んでいる様子とはどういう状況なのかが腑に落ちる。

サービス産業がグローバル展開を行う際には、進出前に自らのコアコンピタンスは何なのかを徹底的に考えるべきだ。進出する国にどう合わせていくかではなく、いままで自分たちが大切にしてきた理念や価値観を凝縮し、できるだけシンプルにコンパクトにまとめることを優先すべきだ。私たちが大切にしている価値観の中には、悪いのは子どもではない、子どもから学ぶ、もっといいものはいつもある―の三つがある。当社がグローバル化できたのも、これらがシンプルでコンパクトだったからだと思う。「不易流行」の「不易」の部分をしっかり押さえた上で、「流行」の部分は現地に合わせていくことが重要だ。

サービス産業生産性協議会には、海外に進出したサービス企業同士が気軽に話し合える場づくりを期待したい。例えば、地域密着で成功している企業の人材確保はどうしているのか、理念をどう浸透させているのか、など。そのような情報を得ることは大変貴重だと思う。近年は、あえて海外展開のペースを抑制し、理念の浸透や交流の促進を重視し、質の向上をはかってきた。今後は次の飛躍に向けた新たな仕組みを構築していきたい。

 

 

 

角田 秋生 氏(サービス産業生産性協議会幹事)・談

生産性新聞2013年11月25日号「サービスイノベーション~今後の展望~」掲載