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リーダーの声

2017年10月20日

株式会社野村総合研究所 理事長 谷川 史郎 氏

2030年の日本をデザインする

 

 

想像しているよりももっと早く大きく、世の中が変わりそうだという話をしたいと思います。
一つは、加速化する情報技術の変革(IOT)、情報がどんどん便利に使えるような世の中になることによって起こる非連続の変化です。もう一つは、今いる1億2000万というのを維持するということは基本的にはどうにもできない。そういう前提の中で何が起こるかという二つについて、お話をしたいと思います。

 

加速化する情報技術の変革
最初にご紹介したのが、この情報技術の変化が起こしているものですが、UBERというサービスです。
UBERというのは、簡単にイメージをお伝えするとスマートフォンに、このUBERのアプリケーションをダウンロードします。そして、自分の持っているクレジットカードを登録します。準備作業はこれだけです。利用方法は、行きたい場所を地図で入力するか住所で入力しますと、その周辺にいるUBERに参加しているドライバーが応答してきます。目的地に着いたら降りるだけです。
このUBERという会社、日本ではまだ見かける機会が少ないですが、会社が設立されて5年間で世界60カ国、360都市に展開しています。時価総額8兆円を超えるまでの期間が、これまでの最高だったGoogleを抜いて、5年間で8兆円を突破しています。
では、このUBERという仕組みは何がすごいのかということですが、このようなサービス業の話をすると卓越したビジネスモデルだという議論がありますが、この会社を見ると必ずしもビジネスモデルが卓越しているとは言えないのです。というのは、アメリカの中でもUBERのライバルでLyftというような会社があります。中国にも似たような会社があります。インドネシアにもあります。UBERというサービスはアプリケーションを見るとすぐ分かります。ですから他社もすぐ真似が出来ます。逆にUBERも他社のやっている新しいサービスをすぐに追っかけます。そういう中で他社と何が違うのかというと、UBERが最短5年で8兆円を超えたのは、この会社の持っている経営のスピードの速さなのです。

このIOTの時代は、インターネットの技術、テクノロジーを使いこなすことが差別化のポイントだと思いがちですが、自分たちの会社の強みをITでどうやって強化するかという発想の仕方をしています。。
 

 

破壊的イノベーション
今、アメリカでは、このような既存の業態の既得権を破壊して、利益を自分のところへ持ってくることをベンチャーキャピタルに提案しながら始めている人がすごく増えています。それを破壊的イノベーションと言いますが、UBERみたいな会社の例をとりまして、この破壊的イノベーションのことをUberizationと呼んだりもしています。

ここで、自動車という非常に身近な例を取り上げます。この自動車産業というのは自動車を造る産業、自動車を動かすために必要な保険、自動車ローンを提供する金融サービス、運輸業や物流のサービスも含まれています。世界で大体570兆円ぐらいあると言われています。このマーケットを破壊的なイノベーションによって自分たちのところへ利益を取り込もうと動きだしている会社が出てきています。
 

 
では、この自動車分野で、破壊的イノベーションが起こるきっかけになっている背景とは何か。現在開発されている車は3万点の部品から構成されています。開発工数の約2割がソフトウエアです。オリンピックがある2020年頃に開発される車になると、開発工数の4割がソフトウエアで占められるとなっています。車の性能というのがハードウエアで決まるのではなくてソフトウエアで決まる時代になってきている。これが大きな変化を起こすベースになっています。

 

自動車の無人走行
昨年、自動車を取り巻く中で急速に注目を集めているのが、無人走行の話題です。毎年アメリカで行われているコンピューター・ソフトウエアの技術コンテストの一つに画像認識コンテストというのがあります。今から6年前に始まったときには、10万枚の画像を見て約3割が間違っていました。ところが、昨年、誤差率が4.9まで下がりました。
実は、人間の誤差率が5.1といわれており、4.9とは人間よりも機械のほうが正確に物を見分けるということの領域に入ってきたことが、この無人運転が本格的に議論され始めたきっかけとなっています。
  

 
今、世界で交通事故により亡くなる方が約120万人いらっしゃいます。戦争で亡くなっている方が10万人くらいです。はるかにそれよりも死亡率が多く、これを考えると機械が運転する時代というのは、必ずしも否定できないかもしれません。
実際、日本とドイツとアメリカで昨年アンケート調査をしまして、自動運転の車が出たら使ってみたいかという質問をしますと、大体、半分ぐらいの方が使ってみたいといわれています。
  

自動運転による影響
この自動運転が本格化すると便利になると思われますが、実は、いろんなところに影響を及ぼします。
一つは、車がぶつからなくなるとボディーが鉄板である必要がないということです。鉄でなくもっと軽い素材で、場合によっては紙でもいいとなったときに、鉄鋼業というのは成立しなくなってしまいます。
それから日本を代表するトヨタは、世界最高の生産台数を現在誇っています。約1000万台という数字は、数の力とともに系列という力も持っています。このITが中心になる時代、系列という概念が成立しなくなります。それから、車が自動運転することにより、稼働率が上がってくる可能性があります。そうすると自動車マーケットが驚くほど小さくなる可能性があります。そして、車そのものが安全になることで、車のための損害保険、これもサービスが成り立たたなくなる可能性が出てきます。
  

人工知能の成長と方向転換
人工知能が成長し、技術を伸ばしてきていく中で、私たちはどのようなことを考えなくてはならないか参考になる例がありますので共有したいと思います。

デンマークは、今から20年ほど前から大きく教育の方向転換を始めています。一つは、知識を教えるのではなくて勉強の仕方を教えること、それから課題の解決方法ではなくて、課題の発見方法を教える。そして議論によって相手を言い負かす技術ではなくて対話、AとBという対立する議論があったときCという折衷案を作る方法、こういったものを教えているのです。
このようにデンマークは教育の根本から改革を始め、今、北欧3国の中で一番イノベーティブな国といわれています。ただ、彼らもこの副作用の存在を感じています。どういう副作用かというと、基本的な知識が欠けている若者がいて面食らうことが多いそうです。ただ、そういった副作用があるものの、国全体としての活力ならびにイノベーティブな力は増してきていますので、多分、日本もこのようなことを見ながら方向転換せざるを得なくなってくるのではと思います。
  

少子高齢化と労働力不足の日本
日本は1995年まで労働力過剰の国でした。この95年以降、日本は構造が変わってきており、労働力不足の時代に入っています。今、足元でオリンピック景気があって労働力が不足しているという認識が一部ありますが、もう既に日本は労働力不足であり、今後20年から30年この状態は改善できない格好になっています。
 

 
世界の先進国で、今、労働力不足の国は日本しかありません。アメリカもヨーロッパも移民が入ってきていますので、労働力が不足する事態は起こっていません。そういう環境もあり、欧米ではロボットを職場に入れることについて自分たちの仕事を奪われるという議論が先行しがちなのですが、日本と米国とドイツでアンケートを採りますと、「自分の仕事をロボットに置き換えられると思うか」という質問に対して、日本人の74パーセントもの人が「置き換えられる」と答えています。違和感がないのです。逆にドイツでは47パーセント、約半分が「置き換えられない」と答える。これは多分に宗教的な意味もあり、仕事は神が私に与えたものであり非常に尊いものだという考えで「置き換えられない」という発想と、日本のように小さいときから鉄腕アトムやドラえもんを見て育つと、ロボットが仕事をしてくれるならいいじゃないかという発想の違いです。
  

   

少子高齢化=増える高齢者
 

 
もう一つ少子高齢化という特徴の一つは、人口減少です。東北で人口減少の中で増え続けているものがあります。70歳以上の人口です。この70歳以上の人口に目をつけた会社があります。「みちのりホールディングス」といいまして、地方のバス会社を順次買収しながら大きくなっている企業です。
バスが人口減少のときに成り立たないと思ってしまいがちなところを、自動車免許を返上した人でバスに乗りたいという人がこれからどんどん増えると、ここに着目しているのです。このようなことができるのも人口減少ということが引き起こしている一つの影響です。
  

少子高齢化=死亡率上昇
もう一つ、この人口減少、少子高齢化は何を意味しているかと、単純に死亡率が上昇するということを表しています。これは当たり前なことです。お年寄りが人口の中で増えていますから過去よりも亡くなる人が増えます。戦後、1000人当たり16名ぐらい亡くなっていたところが1980年に向かってどんどん死亡者が低下します。今後、2040年ぐらいに戦後並みの1000人当たり16名くらいまで行くだろうという数字ですが、ただ戦後の死亡率の半分は幼児と乳幼児です。ですから成人の死亡率というのを取ると、戦後一貫して右肩上がりということになります。
  

 
その結果、終末期の医療に対する考え方は大きく変わるだろうと思います。
これはヘルスケアといわれている産業そのものが、未病の部分のときにどう健康であり続けるかというところにもっとお金を使っていく、そんなマーケットが日本国内に出てくるきっかけになるのではないかと思っています。
  

非連続な時代のマネジメント
最後にまとめておきたいと思いますが、よく、「人」「もの」「金」「情報」という言い方をしますが、こういうふうに非連続に変化するとき、もう一つ大事な経営資源があります。「時間」です。この「時間」というのはどういうことかというと、将来を予見することが非常に難しい時代において、試してみて駄目ならばすぐに撤退して方向転換をする、そういうスピード感を持つことがこれからのマネジメントに非常に重要になる時代に入ってきていると思います。

(「SPRINGシンポジウム 2016 in 高松」より)